「一隅の灯」は宝になるか(35)
一連の「なぜ」について、丁寧な解明を続けてきました。
この7番目の「なぜ」については、現在も具体的な究明が続いていますので、そのまとめがなされた時点において具体的に分け入ることにしますので、本日は、それを飛ばして8番目の「なぜ」に迫っていきましょう。
8つの疑問
この最初のキーワードは、「しっとり」です。
なぜ、このような指触りの感覚が生まれてきたのでしょうか。
それをヒトが髪の毛を洗う事例で説明してみましょう。
まず、髪の毛を濡らします。
そうすると、髪の毛はびしょびしょになり、べたっと濡れて寝た、あるいは倒れた状態になります。
これは、水分がそうさせていることはよく理解できるでしょう。
この場合、水分は髪の毛のなかと外の状態の2つの形態で存在しています。
まだ、髪の毛はきれいに洗浄されていませんので、汚れが付いたままで、そこに水分が入り込み、浸潤された状態で存在していますので、びしょびしょに濡れた状態になっています。
ここでシャンプー液を注ぎ泡立てます。
この泡が汚れに吸着して剥がし、汚れを洗い落とすことによって髪の毛の洗浄がなされます。
ここまでは、誰もが普通に行っていることですので少しの異論もないでしょう。
水分子は、非常に小さいので、当然のことながら、汚れだけでなく、皮膚や髪の毛のなかにも浸透していきます。
しかし、シャンプー泡のように表面張力が働きませんので汚れに吸着して剥がすという行為ができません。
ただ濡らして浸透させるだけでは汚れは落ちませんので、どうしてもシャンプー泡の力を借りなければきれいにならない、これはみなさんがシャンプーを利用する訳なのです。
このシャンプー泡の力を借りて髪の毛をきれいに洗浄し、それを乾かすとさわやかな髪の毛になり、それを触ると「しっとり」感を覚えるようになります。
髪の毛の表面が乾いて、そのなかの方が水分が存在している状態で触った感覚が「しっとり」状態といえるでしょう。
これらを踏まえて犬の場合は、どう考えたらよいのでしょうか?
すでに述べてきたように、犬の被毛は、ヒトよりも3倍多くて、3倍小さいという特徴を有しています。
これは、そのなかに水分が3倍入りにくく、3倍水分を注水しないとヒト以上に仕上げることができないことを意味しています。
大雑把にいえば、3×3で9倍難しいことだといえそうです。
しかも、その被毛には油脂を主とする汚れがより大量に付着していますので、これをきれいしていくという問題が出てきます。
さらには、犬の皮膚は非常に弱く傷みやすい、そして高温多湿の気候に合わない洋犬が多いという事情も重なってきますので、トリマーとしての仕事が成り立つほどに大変な洗浄作業が要求されているのです。
これらを考慮すると、ヒトの髪の毛の洗浄と比較すると、犬の被毛の洗浄は、おそらく数十倍の難しさを抱えているといってもよいでしょう。
それゆえに、「しっとり」した被毛に仕上げることは、ヒトの髪の毛以上に大きな意味があるといえます。
「しっとり」の背後に何があるのか?
被毛が濡れて、水分が入りすぎると、いわゆるびしょびしょ状態になることから、その様は「しっとり」ではありません。
水分が被毛に浸透した後に、それを乾かすと弾力が出てきて、毛が立った状態になります。
びしょびしょの段階では、倒れて寝たままになっていますが、そこから自分で立った状態に至ります。
そして、被毛の表面部は乾き、その奥は水分を保って弾力性が優れるようになり、その被毛を触ると「しっとり」感を知覚できるようになります。
この時、被毛内部に水分がどこまで浸透したのかが問題になります。
周知のように、水分の入り口は被毛のキューティクルですので、このなかにどの程度の水分が侵入し、その形態にどのような影響を与えたのかが問題になります。
さらに、そのキューティクルのより内部には凝るテックスといわれる構造があり、ここに水分が及ぶかどうかも重要な問題になります。
おそらく、被毛の弾力性は、これらの問題と深く関係しているといえますので、より詳しい究明が必要とされています。
「ふわふわ」は、被毛がより乾いてきた状態の表現であり、被毛がヒトの髪の毛よりも3倍小さいことによる固有のここちよさを覚える現象といえます。
一本、一本の被毛が弾力性に富んで立っていながら、その集団の被毛の状態を「ふわふわ」と感じ、それを触るとここちよい、と飼い主さんが触って、大て喜ぶ姿を想像できます。
「つやつや」は、被毛の健康状態を示す指標であり、健康で生き生きした被毛が艶やかな状態を示しています。
この問題で、非常に重要なことは、被毛の根元において血管が通っていることです。
被毛の新生や再生は、この血管における血流促進問題と深く関係しています。
それゆえに、被毛の「つやつや」を醸し出すには、単に洗浄するのではなく、被毛と皮膚の健康改善が重要なのです。
これは、洗浄と同時に、そのケアも同時に実行するという二重の作用が重要であることを示唆しているのです。
次回は、最後の「なぜ」に分け入りましょう(つづく)。


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