常識と非常識(9)

     この会話は、「マイクロバブルはかせ」と、その分身である「光マイクロバブル君」によるものです。

 この両者は、互いに切っても切れない仲ですが、ここは冷静に、それぞれの存在を認めながら公平に、そして熱く議論を進めていくことにしましょう。

 マイクロバブルはかせ:

 「やぁー、光マイクロバブル君。まずは、あなたの今の状態を確認し直してみましょう。

 あなたは、ダム貯水池の水深20mの地点で、20機の光マイクロバブル発生装置で大量に発生していますね」

 光マイクロバブル:

 「そうですよ、光が射さない薄暗闇のなかで、なんだか気味悪い世界です。

 ここにあるのは、酸素が嫌いな水中微生物のみであり、おまけにカドミニウムやクロム、鉛などの金属物質がイオン状態で抽出されていて、まことに汚れた世界です」

 「そうですか。ダムの底を覗いてみたことはありませんが、あなたの話だと異様な世界ですね。

 そこに、あなた方をたくさん吹き込んで、その死の世界を蘇らせようとしているのですから、その目的は立派ですし、空気を吹き込むことは理に適っていますよ」

 「そうですか、そういわれると少し励みになりますね」

 「ところで、あなた方は、底近くで大量に発生させられていますが、そこでどうなっているのか? ダム貯水池の水面を見ていても、あなた方が水表面まで少しも上がってこないので、途中で消えているのでしょうか?」

 「はい、私どもは、このダムの底近くで、生まれては押しつぶされては消え、を繰り返していますので、上の方には昇っていけません」

 「そうですか。あなたが生まれた時の身体の大きさは平均して20~30㎛(0.02~0.03㎜)であり、それがすぐに収縮していく、すなわち小さくなっていきますよね」

 「その通りです。水深20mのかなり大きな圧力がかかっていますので、生まれてすぐに収縮しながら、短時間に押しつぶされて消えて無くなっています」

 「消えて無くなるということは、周囲の水に溶解してなくなるということですか?

 「そうですよ。私の身体は、酸素と窒素で構成されていますので、それらが溶解して、気体であった私の身体は液体へと変身していきます。

 じつは、この液体への変身までは何となく解るのですが、それがどのように、そしてどのような変化を遂げていくのかが、自分でもよく解らないのです」

 「そうでしょうね。あなたの頭では、そこまでの分析能力は備わっていないとおもいますよ」

 「そこを私に解るように教えてください。どうか、よろしくお願いいたします

「あなたの身体は溶解していきます」

 「先ほど、あなたの身体の成分のことを指摘しました。

 あなたの身体は、窒素約80%、酸素約20%、そしてわずかに二酸化炭素約0.4%で成り立っています。

 これらの成分が、一度に、そして一挙に溶解してしまうのではありません。

 もし、そうであれば、非常におかしなことが起こります」

 「おかしなこととは、どんなことですか?」

 「二酸化炭素は、水に非常に溶けやすく、すぐになくなります。これはおかしなことではありません。

 しかし、残りの窒素と酸素が、すぐに溶けてしまうと、その液体の溶存酸素濃度は向上せず、逆に低下してしまいます。

 これは、非常におかしなことであり、これが起こってしまうと、ダム貯水池の底近くに空気光マイクロバブルを入れても、溶存酸素濃度は増加しないことになり、その目的は達成できません」

 「なるほど、おかしな話ですね。

 実際には、そのようなおかしなことは起こらず、溶存酸素濃度は緩やかに増えていきますよね。

 何が、そうさせているのでしょうか?」

窒素は、酸素よりも溶解しにくい

 「光マイクロバブル君、ここから少し難しくなってきます。

 できるだけ、解りやすく解説していきますので、よく聞いてください。

 まず、酸素が水によく溶けて、反対に窒素が溶けない、安定して何も反応が起こらない、これは、常温常圧下における現象です。

 たとえば、容量20ℓのなかで大きな気泡を発生させると、その水槽の中の水の溶存酸素濃度は増加して、やがて、それは飽和状態に達します。

 この場合、空気のなかの酸素分が溶けて、それが溶存酸素濃度を増加させたことになります。

 これは、常温常圧下でよく起こる現象として知られています」

 「そのことはよく解ります。その現象は、私(光マイクロバブル)の場合には何か違うことになるのでしょうか?」

 「ええ、光マイクロバブル君、あなたの場合は、少し違う現象が起こります。

 同じ水槽に20ℓの水を入れて、あなたを発生させると、徐々に溶存酸素濃度を増加させることができます。

 じつは、あなたの場合、空気を毎分1ℓしか吸入しませんので、それだけの空気のなかの酸素分だけは効率よく溶かしますが、しかし、それは1ℓ分しかなく、当然のことながら毎分100ℓのなかの酸素分を溶かすことはできません。

 しかし、時間をかければ、その水の溶存酸素濃度は飽和状態に近くなります。

 ところが、この状態で、あなたの発生を停止すると、その飽和に近い溶存酸素濃度は若干必ず低下してしまうのです」

 「それは、いったいどううことなのでしょうか?」

 「当初は、この低下現象がなぜ起こるのかを、よく理解することができませんでした」

 「もしかして、それは飽和状態に近くなった状態から、遠ざかった、すなわち溶存酸素濃度が下がったということですから、飽和状態を超えて過飽和にはならないということでしょうか?」

 「そうなんです。これは、これまでの常識では想定できなかったことです。つまり、真にふしぎな『非常識』だったのです」

 まだまだ、お二人の白熱した議論は続いていましたが、ここいらで、ひとまず、休憩することにしましょう。

 次回は、この続きに分け入っていきます(つづく)。

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満開のミモザ(前庭)