Mコメント(12-2) 
 
 Mさんから下記の青字のコメントが寄せられました(文中の〇番号は、筆者によるものです)
 三重県のカキ養殖に関することですので、以下の返信(●印の黒字の文章)を行なうことにしました。
 以下は、前日の記事の続きです。

 ③栗原研究員によれば、ポイントは海水温の高さである。カキは夏に産卵して秋以降に栄養を蓄えるが、水温が高いと夏に何度も産卵してしまい力を使い果たしてしますのではないか。また、弱ったことで他の魚に食べられたり病気にかかりやすくなったりするのではないか。地元の漁協関係者「多分エサ不足が一番の原因と思いますね。カキが食べるプランクトンがいなかった。」(東海テレビ)

 YOUTUBEの動画もあります。https://www.youtube.com/watch?v=n0pgcmDKdzA

 この見解については、小さくない疑問をいだきました。

 まず、7月の海水温が高かったために、何度も産卵して体力を使い果たしたことが、大量斃死に結びついたという見解のようですが、より具体的には、次の疑問を持ちました。

産卵・放卵の繰り返しが大量斃死に結びつくのか?

 現在の日本中の養殖カキにおいては、その産卵は五月の連休頃から始まります。

 広島の養殖カキの場合、この五月段階におけるカキのサイズは、5㎜~1㎝程度と小さく、いわゆる稚貝でしかないのですが、この段階において早くも産卵を開始しています。

 カキが生存するうえで最も大きな使命は、子孫を残すことですので、身体は未熟児でありながらも、赤ん坊を産もうとしているというように例えられます。

 虚弱な身体にもかかわらず、産卵をして無理な生殖活動を強いられている、それゆえ、すくすくとは育つことができない、弱体カキになってしまっているのです。

 昔の元気なカキは、こうではありませんでした。

 稚貝の段階からすくすくと成長し、身を大きくして十分に産卵から放卵へと向かう体力を形成させていきます。

 カキは、雌雄が定まっておらず、周囲の環境と自らの成長具合によって雌が都合がよい場合には産卵し、放卵します。

 また、雄になる場合には、一旦産卵していても、それを身入りに変換させて成長させて、再度雌化し、産卵を開始することになります。

 この正常な身入り、産卵は水温が高くなることによって行われるようになり、その放卵は8月中旬前後に行われます。

 周知のように、海水温は、このお盆を過ぎたころに最高温に達しますので、それを見越してカキたちは放卵を行ってきたのでした。

 しかし、ここで近年における海水温の異常な高温化の問題が発生してきました。

 これによって、夏場に、カキを始めとして少なくない養殖産業が被害を被るようになってきました。

大量斃死の原因

 それゆえに、この夏場における海水温の異常高温化、これが最大の問題であり、これによってカキの大量斃死問題が発生していると考えてよいでしょう。

 すでに述べてきましたが、この海の異常な高温化が起こるのは、8月から9月にかけてであり、これが、生浦湾のカキ養殖にどのような影響を与えたのかが、非常に重要な問題といえます。

 この観点から、隣接の英虞湾の海水温を調べてみましたが、やはり私が推察したとおりで、その高温化が8月から9月にかけて発生し、しかも、その温度は29℃を越えていました。

 この異常な高温化が約1か月以上も続いたことから、これによって、大量の養殖カキの斃死を招いた、あるいは、相当に体力を消耗してしまったのではないかと推察しました。

 しかも、カキは殻がいくつも集合して成長していますので、たとえばその一つが斃死すると、その身が腐敗することによって殻のなかが無酸素状態になります。

 さらに、その無酸素水塊が流れ出すことによって他のカキの周辺の海水の酸素を奪い、その周囲全体のカキを大量に斃死させてしまいます。

科学的究明の重要性

 この夏場の異常高温時において、この大量斃死があったのか、なかったのか、それを現地において詳しく調べる必要があります。

 もし仮に、研究員が指摘しているように、7月の時点における海水の高温化によって、カキの産卵と放卵が早期に起こり、それによって体力が弱まり、さらに、再度産卵・放卵を繰り返すことによって、カキが大量に斃死したと考えてみましょうか。

 そうであれば、虚弱体質とはいえ、放卵されたカキの妖精は、カキの殻に付着し、それなりに育っていくはずであり、それが成長してやや大きなカキが形成されていくのではないでしょうか。

 テレビで放送されているように、収穫したカキのほとんどが小粒のカキばかりであったということは、その成長期間が短く、おそらく9月以降に育ったカキではないかと思われます。

 ということは、昨年夏にカキの妖精を付着させて育ってきたカキのほとんどは斃死していたことになります。

 それゆえに、カキの殻は大きく約2年もののサイズになっていても、そのなかのカキは小粒のものばかりであったことの理由が説明可能になります。

 このカキの大量斃死問題は、非常に重要なことであり、前述の生産額の激減問題、そしてカキ漁師の生計にかかわる問題ですので、きちんとした科学的原因究明が必要になります。

 そのために、年間を通じた現場の水質データと同時に、カキの産卵・放卵状態の観察結果、そして斃死との因果関係を明確に示される必要があるように思われます。

エサ不足と斃死問題

 もうひとつの問題は、「多分エサ不足が一番の原因」と地元の漁協関係者が指摘していることです。

 これの科学的な裏付けなしの発言といわざるをえません。

 もしそうであれば、エサ不足でカキが斃死するということをきちんと証明する必要があります。

 カキの餌は、植物プランクトンですが、エサ不足の海域においてもカキ漁が続けられ、生産されている事例はいくつもあります。

 その典型的事例が「岩ガキ」漁であり、これにおいては、3年余の養殖を行なうことで、大きなカキを育て上げ、立派に出荷させています。

 プランクトンが少ない漁場では細菌も少ないことから、夏でも生で食べることできるという特徴を生かしているのが「岩ガキ」漁です。

 生浦湾においては、たしかにそこに流れ込む大きな河川はありませんが、小さい川が4つあり、そこから流れ込んできた栄養によって、昔からのカキ漁が成り立ってきたのです。

 また、降雨があれば、それが生浦湾に流れ込み、地上の豊かな栄養を運んでくれますので、それも植物プランクトンの発生に寄与しているはずです。

 上記の発言においては「多分」という用語が使用されているように、エサ不足でカキが大量斃死したということは、その方の想像でしかなく、科学的な根拠を見出すことはできません。

 すでに、述べてきたように、問題の本質は、なぜ、7割もの大量斃死が起こったのか、そして、1月の収穫期になっても、小粒のカキしか獲れないのか、そして生産額がかつての3割に激減したのか、それらを根本的に究明する必要があります。

 なぜなら、その究明なしに、生浦湾におけるカキ漁の復興はありえないからであり、まずは、その理解を深めることが重要と思われます。

 なお、それらの問題と下記の項目も含めて、次回において、より深く分け入ることにしましょう。 


 ④「身が小さかった、死んだカキが多かった」というのは、要するに『カキの代謝活動が不十分だった』ということで、その原因は産卵に相当なエネルギーを使ったり、プランクトンが減ったりしたことが原因かも知れません。水温が異常に低かったということは無さそうです。水温に問題が無い場合、代謝を活発にするためには、溶存酸素レベルを上げ、エサを供給することですが、先ず水中の溶存酸素レベルの測定から入るべきだと思います。


  ⑤栗原さんは長崎の水産技術研究所の「養殖部門」の主幹研究員です。大成先生は有明海のノリの研究で水産技術研究所とはおなじみだと思います。一度栗原さんに大船渡のデータを見せたらビックリすると思います。光マイクロバブルを吸収したカキの心臓の血流は2倍に増加しています。血流の増加はカキの細胞の代謝の活性化が原因であり、通常は水温12℃以下ではカキは成長しないのですが、大船渡の8℃の水温(1月の平均水温)でも成長を続け大きくなりました。日本混相流学会の研究報告書とYOUTUBEの動画を見れば、ビックリするはずです。

(つづく)。
カキマイクロバブル佐伯

 江田島湾における光マイクロバブルの発生(株式会社ナノプラネット研究所提供)