非常識の門

 研究員のD君と共に、光マイクロバブルフォーム研究に関する「非常識の門」をくぐり始めました。

 そこには、途方もない未知の世界が広がっていました。

 それは前人未到の科学の領域であることから、そこで歩を進めることは容易ではなく、いくつもの困難が存在していました。

 当然のことながら、この未知のふしぎな探究においては、その現象そのものが非常識なことであることから、文字通り常識が通用しない、いわば非常識な究明方法しか成立しなかったのでした。

 しかも、その関門は単一ではなく、一つをやっと通過しても、すぐに、次が待ち構えていて、ますます、そこに難儀が横たわっていました。

 具体的にいうと、最初の関門は、光マイクロバブルフォームという特殊な泡の正体を探ることでした。

 当然のことながら、その非常識な関門を潜り抜けていくには、非常識の通過法を見出すことが求められました。

 まず、光マイクロバブルフォームの正体を探ることが重要となりました。

 これまでの私たちの常識においては、光マイクロバブルフォームの平均的サイズは60㎛(マイクロメートル、0.06㎜)でした。

 これよりもかなり小サイズのものが、光マイクロバブルフォームの実体ではないか?

 こう推察して、その実体を究明するために何回もの可視化実験を繰り返し、その予測が正しいことが判明してきました。

 そこで、この正体の平均サイズを明らかにするために、精緻な可視化実験を繰り返し、かなり膨大な数のサンプルを取得することができました。

 その結果、光マイクロバブルのフォームは、従来の平均サイズよりも相当に小さいことが明らかになりました。

 周知のように、それが小さければ小さいほど、より厳密に精度良い光マイクロバブルフォームに関する可視化データが必要になります。

 そこで、最小目盛りが10㎛のマイクロスケールが刻まれたプレパラート上に、光マイクロバブルフォーム水を注入して、その可視化実験を行いました。

 その結果、どうにか、最小読み取りサンプルの精度を1㎛にまで下げることができるようになりました。

 この画面上における、いわば物差しを写し出すことができるようになって、1㎛以上の光マイクロバブルフォームを精度良く計測できるようになったのでした。

 精度1㎛の可視化画像を鮮明に撮影することは、常識的には非常に困難なことであり、これを実現させたのは、その画像上に精度1㎛の物差しを入れて撮影できるようにしたからでした。

 第2の非常識は、その画像撮影を延々と繰り返し、統計的に十分だといわれるサンプル数を確保できる可視化実験を遂行したことでした。

 この当初の目標は、サンプル数を500個でしたが、非常に重要なデータになることから、

 「サンプル数を1000個以上にしましょう!」

と提案し、それをD君は快く引き受けてくれました。

 そして、この目標は達成され、その平均サイズが算定されました。

 その詳しい数値は、非常に重要であることから、公的な発表の後に披露することになるでしょう。

 第3の非常識の関門は、この光マイクロバブルフォームの発生数を定量的に求めることでした。

 水槽内で光マイクロバブルフォームを発生させると、たちどころに水槽内が白濁化し、その奥が見えなくなります。

 これを眺めれば、光マイクロバブルフォームが、非常に多く発生していることが明らかになりますが、問題は、それがどの程度に大量なのかを理解することにありました。

 この非常識な探究を、どのようにして実現していくのか?

 「そんな面倒なことはできない、その必要はあるのですか?」

 このような影の呟きが聴こえてきそうですが、じつは、これを求めることは、非常に重要なことに関係していました。

 「およそでよいから、この光マイクロバブルフォームの定量的評価を行いましょう!

 これが解ることによって、技術的、すなわち実用的に非常に重要なデータとなります」 

たくさん、大量では、定量的評価にはならない
 
 
D君が行った大量の実験データのなかに、この評価を行うことが可能な可視化画像がありました。

 未だ、その評価はできていませんが、これがヒントになって、この第3の関門が突破できそうです。

 しかし、これらの非常識的関門は、いわば序の口に過ぎず、次の第4の関門は、より難しく、より厳密で、より鮮明な可視化実験データを得る必要がありました。

 非常識の関門に遭遇するたびに、こちらも非常識のブレイクスルー(突破)のアイデアをめぐらし、その闘いに挑む、このようなおもしろい試みが続くことになりました。

 これを非常識的にいえば、光マイクロバブルフォームのロマンといってもよいでしょう。

 D君の実験に取り組む姿勢もより積極的になってきました。

 光マイクロバブルの流儀、それは非常識の関門を突破していくことでした(つづく)。

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              サヤエンドウの花(緑砦館1)