14年ぶり
10月13日に浦添市で琉球オペラを鑑賞した後で、私たちは沖縄市に戻り、私と娘はホテルへ直行し、家内は、そのままピアノ伴奏者と一緒に、15日からのCD録音のためのリハーサルを行いました。
その結果、寝不足や人疲れ、沖縄の人情に触れて交流しすぎて、その練習は最悪の状態だったようで、いつもの1割程度しか声が出なかったそうです。
それゆえ、家内は深刻な顔つきでホテルに戻ってきました。
「明日は、一緒に恩納村の植物工場に行ってHさんと懇談する予定でしたが、それを中止して、ホテルでゆっくり休養します」
「そうだね、明日は私一人で出かけますので、ゆっくり静養してください」
今回の沖縄訪問の最大の目的は、家内の14年ぶりの7枚目のCD録音にありましたので、これが上手くいかなければ、元も子もなくなるような問題でした。
夕方、恩納村での視察を終えてホテルに帰って家内の様子を尋ねると、すっかり元気になって表情も明るくなっていましたので、さすが、キャリア十分の身体コントロール力だと思って一安心しました。
翌朝は、ピアノ伴奏者の車で沖縄市のホテルを出発し、那覇市のホテルに到着してから、二手に別れました。
家内と伴奏者は、沖縄本島南部にある八重洲町の録音スタジオの「T tutti(ティー・トッティー)」に、そのまま向かいました。
また、私たちは、那覇港近くのホテルでお茶を飲みながら。しばしを過ごすことになりました。
前日の不調は、どこ吹く風?
さて、このスタジオは、わざわざ、フランスから収録機材を輸入して配備されたそうで、頗る反響がよく録音機器も揃っていたそうで、申し分のない録音場所だったそうです。
そのことは、後になって送られてきた家内の歌声の繊細さや伸び、反響などの素晴らしさによってよく解りました。
ところで、問題は、CD録音が無事にできたかどうかでしたが、そのことは、夕方にホテルに帰ってきた家内の表情で、すぐに理解することができました。
彼女は、まず、このスタジオのことを非常に誉め、よく声が響いて歌いやすかったといっていました。
前日の不調は、どこに行ったやらで、録音は、1時間40分で済んだとのことでした。
全18曲を、わずか100分で済ませ、そのほとんどは1回の演奏で通したそうです。
このうち、2、3曲については歌詞を間違えたことによる歌い直しだったとのことでした。
普通の録音であれば、何度も繰り返して歌い直しながら録音をしていくのですが、彼女の場合はそれがなく、真に美空ひばり並みの「一発OK」の収録となりました。
じつは、この収録のために、次の日の16日も予備日として確保していたそうですが、それも不要になりました。
この日まで、私は、この7枚目のCDに収録する曲名をほとんど知りませんでした。
ただし、家内がよく風呂のなかで歌の練習をしていましたので、そのなかには、私が好きな曲もありました。
昴宿の旅
その一つが、谷村新司作詞作曲の「昴(すばる)」でした。
この歌が流行っていたころに、この曲を聴いて、「おやっ」と思ったことがありました。
それは、石川啄木の『悲しき玩具』のなかに、この昴の歌の第二番の歌詞によく似たフレーズがあったことでした。
そこで、谷村新司の歌詞作りのことを調べてみると、やはり、かれが石川啄木に心酔していたことが解りました。
そして、昴という星は散開星団であり、一つではなく7つの連なった星であることも知りました。
しかし、中国からは、その星の数は6つしか見えなかったことから、その星が「六連星(むつらぼし)」と呼ばれていることも判明しました。
さらに、中国においては、この六連星を渡り歩くという壮大な旅のことを「昴宿」という言葉で表現することも知りました。
この言葉が気に入り、「昴宿旅立」という用語を開水路乱流の渦構造の写真と一緒に年賀状に印刷して出したことがありました。
この度、沖縄に出かける前に、家内が、この古い年賀状を探し出してきて、相当に気に入ったようで、これを今回のCD作品のメインタイトルにしたいといってきました。
もちろん、それを快諾して、昴の歌と共に、この「昴宿旅立」が、CDのパンフレットに印刷されることになりました。
おそらく、この年賀状は1990年代に出されたと思われますので、それから30年以上も経過したことになります。
この私の「昴宿の旅」は、どうであったのか?
今は、7つある散開星団のいくつ目を渡り歩いているのか?
このような思いが湧いてきますね。
おそらく、まだ終点には至っておらず、その半ばを彷徨っているかもしれません。
そうであれば、この歌詞のように「心の命ずるままに、我は行く」を成し遂げていく必要があります。
幸いなことに、これからの旅においては、家内の「昴」を耳にしながら星を渡り歩くことができますので、やや激励された気分になることができそうです。
そうであれば、泣き虫だった「石川啄木」さんにも、この昴宿の旅のどこかで、家内の「昴」を聴いていただくとよいですね。
ヴィリアの歌
もう一つ、よく聞こえてきた練習の歌が「ヴィリアの歌」でした。
これは、フランツ・レハール作曲の喜歌劇「メリー・ウィドウ」の第二幕で演奏される曲です。
若き木こりが、森の妖精に恋をする歌ですが、家内は、この曲を歌うのを得意としており、若いころからよく聴いてきました。
しかし、なぜか、この歌が、既刊の6枚のCDのなかに入っていなかったので、ふしぎに思っていました。
「どうして、ヴィリアの歌が収録されていなかったのか?」
と家内に尋ねたこともありました。
そしたら、今回のCDの最後の曲として、これが入っていました。
やはり、この歌は難しかったのでしょうか、あるいは、それを歌うのに体力が必要だったのでしょうか、実際の録音の際には、真っ先に、この曲から演奏して収録したのだそうでした。
こうして、何とか無事に、前日は、かなり心配したものの、家内らしくCD録音を終えることができ、今回の沖縄旅行の大半の目的を達成することができました。
11月に入ってから、その録音試作版が送付されてきました。
やはり、このスタジオで収録したことが非常に良かったようで、透き通った張りのある歌声になっていました。
これを二度、三度と軽微の修正を行っていただき、今では、その完成版を拝聴しています。
また、CDパンフの編集も済み、来月には正式に製作が完了するようです。
沖縄紀行6日目の家内のCD収録も上手くいって、その日の夕食は那覇市のホテルでいただきました。
お祝いにワインで乾杯しました(つづく)。
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