「一隅の灯」は宝になるか(6)

 D君との週3回の実践的な研究が進んでいます。

 この過程で、さまざまな議論がなされていますが、そのなかで話題となった問題を少し取り上げてみましょう。

 その第1は、ワンちゃんの皮脂洗浄に関することです。

 SNS上では、マイクロバブルやナノバブルが、ワンちゃんの毛穴に入り込んで皮脂を洗浄するということが、まことしやかに示されています。

 これらを見てみると、毛穴のなかにマイクロバブルやナノバブルが入っていくことによって、それが皮脂に付着して、その毛穴のなかの皮脂を剥がしてきれいに取れてしまうという洗浄方法のスケッチが描かれています。


 周知のように、犬の毛穴のサイズは、約20~30マイクロメートル(㎛)とされています。

毛穴に入っていけない

 当然のことながら、このサイズよりも大きなマイクロバブルは毛穴のなかに入っていくことができません。

 また、その毛穴には、油脂成分が形成されていますので、その隙間にマイクロバブルが入って奥まで侵入するには、さらに小さなマイクロバブルが必要になります。

 しかし、その前に、もうひとつの最大の問題があります。

 それは、毛穴に面した水(お湯)に表面張力が働いていて、これを突破して毛穴のなかにマイクロバブルが入っていくことができないのです。

 これはナノバウルであっても同じことです。

 毛穴の直径は、20~30マイクロメートルですので、この非常に小さな穴のなかに水やお湯が入ろうとしても、そこの表面張力が作用していますので、それを突破することができないのです。

 なぜなら、その表面張力の大きさが莫大に大きく、その液体の圧力程度では、微動だにしないのです。

 この理由は、次の事例でよく解ります。

 今、内径が20~30㎛(100分の2~3㎜)の注射針があるとします。

 これを注射器に付けて液体を出そうとした場合に、それは人力で押し出すことができるでしょうか?

 これは、どだい無理で、どんな怪力の持ち主でも不可能であり、鬼の怪力でも通用しません。

 それなのに、少なくない方々が、その問題を考えずに、毛穴のなかに液体と共にマイクロバブルやナノバブルが入っていって、油脂に付着し、洗浄してしまうと堂々と主張しています。

当てずっぽう

 これを世間では、「当てずっぽう」というのです。

 おそらく、何の科学的実証や考察がなされないままに、誰かが、その当てずっぽうでいったことを真似て、それが瞬く間に広く流布されたではないかと思われます。

 このように、すぐに解るデマや過誤に騙されてはいけません。

 良心的なトリマーのみなさん、専門家といわれる関係者のみなさん、この誤りをよく考えられてみてください。

 私は、誰よりも早く、そして世界に先駆けてマイクロバブル発生装置を開発し(1995年、のちにマイクロバブルを「光マイクロバブル」と呼称)、マイクロバブルの物理科学的特性を詳しく研究してきました。

 それゆえに、ほとんど何も科学的な検証なしに、毛穴のなかの油脂をマイクロバブルが洗浄するということを平気でいい、それが広く普及されてきたことに、小さくない危惧を覚えています。

 マイクロバブルが毛穴に侵入できることは簡単なことではありません。

 ましては、そのマイクロバブルが油脂に付着して、それを洗浄することは、より難しいことだといえます。

 まずは、その簡単なスケッチを描いてみましたので、それらの難しさをよく考えられてみてください。

 そして、それが可能であるというのであれば、その魔法のようなマイクロバブル洗浄法を探究してみてください。

 もちろん、私も、その探究者の一人として、その隊列に加わっていくつもりです。

 以上、よろしくお願いします(つづく)。


keana-11

毛穴に入れない「謎」
水と油を混ぜると油滴が多数形

成されてチェリー界面が広がるチェリーセージ