未来は青年のもの (14)
  
 昨日の記事の続きです。

 大谷翔平選手は、48-49まで到達しました。

 いよいよ秒読み段階に入りましたね。

 明日からは、おそらく最高潮に達するでしょう。

 ここで、おもしろい掛布・江川対談を拝見しましたので、それの紹介しておきましょう。

 この対談は、今シーズンの初めになされていて、そのテーマは、大谷が50本のホームランを打てるかどうかに関するものでした。

 同じホームランバッターであった掛布は、それは可能だと予測していました。

 ただし、そのためには、打率が2割8分程度でなければならないといっていましたが、その打率が、現在の大谷の打率とぴたり一致していて、さすがの推察だと思いました。

 かれの主張は、プロになると打ち方が変わるのだそうで、ホームランバッターは、常にホームランを狙って打とうとするが、それがずれてヒットになることはありうることであるというものでした。

 逆にヒットを打とうとして、それがホームランになる確率はわずかであり、そこが素人の打ち方とプロの打ち方の違いであると明快に説明していました。

 また、打率三割を維持しようとすると、狙って安打を打とうとするので、そうであればホームランを打つことはできないともいっていました。

 さすが、何度もホームラン王になった掛布の解説には説得力がありました。

 今の大谷選手は、ツーストライクを取られても、フルスイングをしてホームランを狙っています。

 そのために三振になっても仕方がない、これに徹しているようで、これが今の50-50への接近を可能にしている打撃法といえそうです。

 明日は、早朝からのマーリンズ戦があるようで、これを見逃さないように録画予約をしておきました。

 王座戦第二局

 御周知のように、王座戦は、それぞれ持ち時間が4時間と短く、朝9時から開始して、夕方から夜にかけて、一日で勝負が決まる戦いです。

 今回は、藤井聡太王座・七冠に対して、永瀬拓矢九段が挑みました。

 すでに第1局は藤井王座が先勝し、この第2局が、藤井先手、永瀬後手番で始まりました。

 互いに研究会などで若い時から知り合う仲だったことから、相手の手の内を熟知したおもしろい闘いになることが予想されていました。

 また、前回の王座戦においては、永瀬王座に対して藤井七冠が挑戦するという対局でした。

 この時、永瀬王座が防衛すれば永世王座の獲得、藤井七冠が勝利すれば、すべてのタイトルを手にする八冠ダッシュという小さくない栄冠をかけていました。

 結局、この対戦は藤井七冠が3勝1敗で初タイトルを得ますが、各対戦においては、それこそを死闘を繰り広げた大熱戦であり、何回も、その闘いぶりに心を奪われました。

 とくに、永瀬王座は、何度も九分九厘の優勢を確保しながら、最後の最後に藤井七冠が逆転するという際どい、スリリングな勝利を得るという局面が何回もありました。

 そして藤井七冠の、その時の心理と読みの深さ、確かさに素晴らしさと凄みを感じました。

 おそらく、立場を変えての今回の対戦においても、この大熱戦が繰り広げられるであろうと予想していましたが、じつは、これがほとんど外れてしまいました。

 それは、なぜなのか?

 何が、そうさせたのか?

 永瀬九段は、タイトルを失った後に、厳しい予選を勝ち抜いて、再び挑戦者に返り咲きました。

 ここまで至るのに、相当な苦労をなされ、苦心を積み重ねてこられたことでしょう。

 また、藤井七冠は、叡王戦で伊藤匠七段に敗れ、八冠を維持することができませんでした。

 ある意味で、この敗戦は、かれにとって小さくないショックを受けたことになったことでしょう。

 これを、どう受け留め、どう立ち直っていくかにおいて、相当の深い思慮と自己評価がなされ、その改善において、以前に増しての厳しい努力と修練がなされたことでしょう。

 そのことによって、かれがより成長したくましくなっていったことが、その後の王将戦、名人戦、棋聖戦、王位戦などの勝利によって垣間見えていました。

 今回は、これらの実践的な修練によって勝ち抜いてきたことによって磨かれた洗練性を身につけた藤井七冠が、永瀬九段の挑戦を受けることになったわけで、ここには、前回の藤井七冠がいたわけではなかったのではないでしょうか。

強さの証明

 そのことが、如実に現れたのが第二局でした。

 後手番の永瀬九段は、取って置きの作戦を初めて適用し、王頭を襲ってくる、ある意味で罠ともいってよい妙手を少しの時間も要さずに指してきました。

 これに対して、藤井七冠は長考の連続であり、おそらく、このままでは、その罠に落ちてしまうと思われたのでしょう。

 そこで、一挙に反撃に転ずる4六香という妙手をひらめいたのでした。

 これこそ、藤井七冠がより洗練されて強さを増した証明の手でした。

 これによって、藤井七冠の銀は、永瀬九段の桂馬による只取りとなり、ここで解説者たちが大騒ぎを繰り広げることになりました。

 予定が狂った永瀬九段も、そこから長考を繰り返し、3時間近くあった残り時間差を一気に費やす戦いへと転じていきました。

 こうなると、共に経験したことがない戦いになりますので、ここからは読みの深さと創造力が威力を発揮することが決め手になります。

 そして、この香車が威力を発揮して、次々に後手陣の構えが崩れていきました。
 
 この過程は、かつて藤井曲線と呼ばれていたものであり、永瀬九段は少しも自局を好転できないままに追い詰められていきました。

 最後は、豪華に角を2枚使って詰碁に至り、永瀬九段の投了となりました。

 この間、インターネット中継によって藤井七冠の表情がアップで示されていましたが、それを見て、より大人の表情に変わってきたことを直に見出しました。

 明らかに、1年前の王座戦や王将戦の時の表情とは違っていて、より大人化が進んだ表情になっていました。

 この表情をじっくり観察して、こう思いました。

 「そうか、相当に修練を重ね、自分を鍛えてきたな!より顔が引き締まって、大人の顔になり始めているようだ!」

 おそらく、実戦に継ぐ実践が、かれをそうさせたのではないか?

 なぜ、このような修練と洗練が可能になったのか?

 ここに大谷翔平選手との共通性があるのではないか?

 この探究は、非常におもしろい課題ではないか!

 このような思いに至りました。

 第3局では、永瀬九段がなりふり構わず、全力でぶっつかってくるでしょう。

 これは楽しみですね。

 次回は、それらに分け入ることにしましょう(つづく)。

saru-111
百日紅(前庭)