「イノベーションの本質(1-15)」
前記事において紹介した「気液二相流体における遠向心分離による旋回気体空洞部」の形成は、初めての科学的法則性らしきものとして、そこに重要な何かが潜んでいるのではないか、このように思うことができました。
そこで向心力について、その基本を勉強してみました。
するとおもしろい次の事例がありました。
ロウソクに火を点けて持ち、椅子に座って回転すると、そのロウソクの炎はどちらを向くか?でした。
これを自分で確かめてみると、その炎は、自分の身体の方になびいていました。
講演のなかで、この向心力のことを解説するために、よくこの実験結果について採用していました。
水と空気を混ぜながら旋回させると、その空気の塊が、回転する中心軸上に集まってきて細長い空洞部を形成させることが、この実験によって明瞭になりました。
しかし、この旋回気体空洞部の形成が可能になったものの、それによってマイクロバブルが発生することには至りませんでした。
まだ、重要な何かが不足していたのでした。
「これを、どうブレイクスルー(打開)していくのか?」
この思案が、またまた始まったのでした。
まず、次の問題を改良することを考えました。
①16段階における装置の特徴は、4つの噴出口のうちのそれぞれ二つづつにおいて、気体と液体の圧送口を設けていたことにありました。
これは実用的ではありませんでしたので、これを一つづつ減らしました。
この改良によって、気体と液体の1個当たりの噴出量が増加しました。
これが17番目の改良でした。
②しかし、旋回気体空洞部の形成には結びつかない、マクロ気泡の噴出成分もあり、細くて長い旋回気泡空洞部の形成に関して、不十分なところがあるという問題点を見出していました。
結局、噴出圧力や噴出量を変えて、あれこれと実験を繰り返してみたものの、そこからの進歩はなく、そのままの状態で、私は、ドイツ(ドイツ航空宇宙研究所の流体力学研究所)とアメリカ(南カリフォルニア大学航空工学科)の客員教授として海外留学することになりました。
その間も、このマイクロバブルの開発のことが気になっていましたので、スタッフに、その実験を行っていただき、その結果を報告するように依頼していました。
折しも、そのドイツ留学の最中に、阪神淡路大地震のCNN報において、その記者が「被災地は地獄と化している」という報を目の当たりにしました。
ドイツでは地震が発生することはありませんので、かれらにとっても、この惨状はショッキングなことで、「あなたの友人や親戚は大丈夫か?」とずいぶん尋ねられました。
おそらく、この直後のことだったでしょうか。
スタッフの一人からファックスによる次の報告がありました。
それは、スタッフの一人が、偶然、その改良装置の上端を手で塞いだのだそうです。
そうすると、装置内の旋回気体空洞部にすべての気体が、その遠向心分離によって集中的に集まってきて、より細くて長いきれいな旋回気体空洞部が形成されたようでした。
「そうか、旋回気体空洞部をきれいに形成させるには、装置の上部を閉じた方がよいのか!」
その報告のなかには、より微細な気泡の発生の増加がみられたということもありましたので、それも含めて、帰国後に検証させてくださいということを述べておきました。
この時、私は、「壁乱流の秩序構造」という流体力学上の重要課題について研究を行っていましたので、この流体力学研究所および南カリフォルニア大学においては、未だ未完成であったマイクロバブルのことは少しも明らかにしていませんでした。
この時、歴史の歯車が少し前に動いていて、マイクロバブル発生装置が完成して、それをかれらに報告していたら、おそらく、違った「反応」が生まれていたかもしれません。
しかし、それは映画にあるように未来から戻ってくることはできなかったことでした。
17回目の改良
結局、17回目の改良は、気体と液体の噴出口をそれぞれ一つにしたことであり、その装置の上部を偶然手で塞いだことで、旋回気体空洞部のより強力な形成がより可能になったことで終わり、しかも、その開発問題は、1995年8月の帰国以降に持ち越されることになりました。
この時点においては、未だマイクロバブルの発生装置の開発は未完成のままでした。
しかし、科学的には、気液二相流体の遠向心分離による旋回気体空洞部の形成を可能にしたことから、その次の段階として、その制御法を検討するという段階に歩を進めたことになりました。
アメリカのロスアンジェルスにおいては、「帰国後に、すぐに検証してみよう」、このような気持ちが、少しずつ持ち上がっていました(つづく)。
17回目の改良概念スケッチ
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