「イノベーションの本質(1-14)」
前記事において示したように、光マイクロバブル発生装置の開発に至るまでの、すなわち、未開発期間における15回目の改良は、下図にあるように、装置下部の4つの噴出口から、水と空気を2つずつ挿入させるという方式でした。
これもすでに述べてきたことですが、この改良は、4つの挿入口から空気を圧送してきたことを変化させたものでした。
しかし、これによって、マイクロバブル(後に「光マイクロバブル」と呼称)のみを大量に発生させることは実現しませんでした。
この方式における最大の問題点は、その2つの挿入口から大量の空気を噴出させていたことにあり、その噴出後の気体が大きなサイズの気泡塊として、旋回しながら上昇していったことにありました。
やや旋回速度を速めても、その空気塊と水が混合することによって、大量のマイクロバブルが発生することはなかったのです。
「今回もダメか!」
新たなアイデアが浮かんできて、すぐにそれを試してみても、上手くいかない、この連続であり、その格闘が長く続く日々でした。
16回目の改良
「思い付きだけの改良では、もう限界なのかもしれない。
どのようにしたら、マイクロバブルのみを大量に発生させることができるのか?
その原理とは、どのようなものなのか?」
このように悶々とした気持ちを抱えて、その日も実験室に向かい、ダメという結果が出ていたエアレーション実験を再度行い、その様子を見ながら、「どうすればよいのか」を考えてみることにしました。
私の場合、ダメな実験であっても、その実験の様子をじっくり観察しながら目の前で考えてみる、このようなことをよく繰り返してみることを常としてしていました。
ーーー ダメであっても、そこから何か良いアイデアは見つからないか!
もしかして重要な何かを見逃していないか?
研究室であれこれ考えるよりも、実験室などの現場で目の前の現象を観ながら集中してじっくり沈思黙考する、これが偶によいことを生み出す場合がある、この経験を持っていましたので、一人で、その水槽の前で考えてみることにしました。
科学的実験において、嘘のような、あるいは奇跡のようなことは起こりません。
また、その日の実験が、依然と異なった現象を生み出すこともありません。
しかし、同じ現象を見ていても、以前とは異なるものを観ることはできるのです。
これを平たくいえば、「視点を変える」ことになります。
それまでの視点は、マイクロサイズの気泡のみが発生しているか、どうかを見究めることでした。
しかし、それはなく、それゆえに「ダメだ!」と思っていたのでした。
この時は、一人静に、実験水槽の前に立つという、心密かなうれしさを味わいながら、その気泡塊が旋回しながら水中を上昇していく様子を観察していました。
ーーー おやっ!この気泡塊は、おかしな動きをしている?
それをよく観察すると、気泡塊が装置の中心軸上に集まって上昇しているようでした。
さらに、目を凝らして観ると、そこにうっすらと空洞らしきものが形成されていました。
ーーー なぜ、このような空洞ができるのであろうか?
その理由は、すぐに判明しました。
そうか、これは、旋回しながら上昇している気泡塊に対して向心力が働いていたのでした。
そうであれば、空気より重い水には、遠心力が働いているはずだということも推察することができました。
ーーー そうか、これは、旋回する気液二相流体において遠向心分離が起こったことによる空洞化現象なのだ!
ここで、マイクロバブル発生に関する科学的基礎原理らしきものが、ようやく登場してきたのでした。
この現象は、ポンプによる噴出圧力をより強めることによって、より明らかに形成されるようになりました。
この気液二相流体における遠向心分離作用によって形成された、装置中心軸上の空洞化現象をどう考えればよいのであろうか?
この空洞化が形成されるという新たな事態に遭遇したものの、この形成によってマイクロバブルの大量発生に導かれることはありませんでした。
直感的には、この空洞化現象は重要でないかと想像しながらも、それをマイクロバブルの発生に結びつけるアイデアをひらめくまでには至っていなかったのでした。
こうして、第16回目の改良は終了しました。
そして、次の17回目の改良に至るまでに、かなりの時間を要したのでした。
未だ、マイクロバブルの女神は、「エウレカ!」と叫んで微笑んではくれなかったのでした(つづく)。
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