「イノベーションの本質(1-14)」

Mコメント(4)

 Mさんから、次々に懇切丁寧なコメントが寄せられています。

 今回は、下記の青字の疑問について回答します(番号は筆者が記入)。
 

 ①旅日記(24)にて「ご指摘のように、その300mの地点の水深は30mを越えていますが、その底付近で溶存酸素濃度が若干増えています。 

 これは、光マイクロバブルの溶存効果ではなく、より上流からの溶存酸素濃度のやや高い海水が流下して、その若干の増加がなされたと判断しています。」と書いておられます。

 ②大船渡湾のFIG.4 溶存酸素レベル分布を見ると、MB発生装置から300メートル離れた筏の水深ゼロメートル(水面)の溶存酸素レベル(6.86.9mg/L)で水深30メートルの溶存酸素レベル(6.4mg/L)より高レベルになっています。

「上流からの溶存酸素濃度のやや高い海水が流下して」水面の溶存酸素レベルを上げたのではないでしょうか。

 ➂また、面白いことに、水深ゼロメートルでは、発生装置からの距離50M100M200300Mの溶存酸素レベルがほぼ同一であり、普通に考えると発生器から離れるほど溶存酸素レベルが低下するであろうが、なぜ50M300Mが同じなのか疑問に思いましたが、これも「上流からの溶存酸素濃度のやや高い海水が流下して」水面全体の溶存酸素を増やしたのではないでしょうか。

 ④筏は400M地点にも置いたそうですが、この溶存酸素量を測ったデータがないのは残念です。400M地点では表面の溶存酸素量と水深30Mの溶存酸素量では大きな差が生じたと推測されます。

 ⑤今ひとつ残念なことは、魚群探知機でMBの画像を撮影し、「画像として認識される範囲は、およそ4050Mであることも判明した」とありますが、MBの直径が縮小するのは、ヤング・ラプラスの式に従い、表面張力により「時間の経過とともに」サイズが縮小するわけで、「発生から何秒間で画像として認識されなくなった」のか時間を計測すべきでした。

 潮流の速さにより10Mにも100Mにもなり得るわけで、4050Mだったという計測結果には意味がありません。

回答

 上記の番号を付した節ごとに回答を示すことにしましょう。

 また、読者に解りやすくするために、ご指摘の小論内に示された図面と画像を抜粋して以下に示します。

 ①:ご指摘の通りです。光マイクロバブル発生装置から300mの地点にまでは、光マイクロバブルと光マイクロバブル海水の効果は、ほとんど及んでいないと判断していました。

 その時の図面を参考のために転載します。

 
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 Fig.1と4は、現地の大船渡湾蛸の浦に設置した光マイクロバブル発生装置104機の位置図およびその海域における溶存酸素濃度の観測点とその分布図です。

 各観測点は、既存のカキ筏の位置を考慮して、北西方向に設けられました。

 このFig.4の観測点200m地点において、その底部付近で溶存酸素濃度の増加が認められますが、それは、上流からの溶存酸素濃度がより高い海水の流入があったからと解釈していましたので、その旨を前記事において示しました。

 この傾向は、100m地点および300m地点とは明らかに異なっています。

 今振り返れば、その前後の近くをもう少し密に観測して、その傾向をより詳しく調べてみるとよかったですね。

 なにせ、現地では、満潮時間までに計測を終えなければならないという、いわば時間との闘いのなかでの観測でしたので、余裕がありませんでした(地震で突堤の部分が約2m沈下していて、満潮になると、帰ることが難しくなるという制約がありました)。
 
 ②:その可能性はあると判断しています。大船渡湾の最上流に盛川があり、ここから溶存酸素濃度が豊富な河川水が大船渡湾に流入しています。

 周知のようにこの河川水は軽いことから、大船渡湾の表層に流れ込みます。

 そして、満潮、干潮ごとに、この淡水と海水が混合されて流下していきます。

 この影響を受けて、溶存酸素濃度が底面付近においても増加した可能性がありますので、ご指摘の点については、その通りだと思います。

 また、この流下の可能性と共に、海面上においては、風や波の影響やプランクトンの発生によって溶存酸素濃度が高くなる傾向がありますので、その点の考慮も必要と思われます。

 さらに重要な点は、ゼロメートル地点において、溶存酸素濃度が他の観測点よりも低くなっていることです。

 これは、光マイクロバブルの発生、上昇に伴って、より低い溶存酸素濃度の海水塊を下層から上昇させたことによるものであり、そのことについても追加説明を行っておきます。

 ③:この50mと300mの海水面における溶存酸素濃度の同一性は、溶存酸素濃度の高い表層水の流下、風や波による流動によるDO増加、プランクトン増によるDO増加などが影響していると思います。とくに50m地点は、後ろ二者の景況を強く受けている可能性があります。

 この無酸素飲料水を大量に飲めば、当然のことながら身体に悪影響を及ぼしますが、飲む量が限られていまうので、ほとんど問題がないとみなされています。

 これらが一般的な気体の溶存化技術における見解ですが、これが光マイクロバブルの場合には、非常に重要な問題が生まれてきます。

 ④:確かに、400m地点においても水質観測を行った記憶がありますが、おそらく、限られた時間制約の中で、それをオーバーして観測途中で打ち切ってしまったことから、データーとして揃わなかったのではないかと思います。

 また、別の方角の図面を見て西側のカキ筏付近でも観測を行いましたが、ここでは、光マイクロバブルの影響を受けていないと判断されました。

 根気よく、コツコツと水質観測を行う必要がありますので、時間はあっという間に過ぎていきました。

 朝から午後二時までが実働時間であり、船と船頭さん借りながらの観測でした。

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 大船渡湾において光マイクロバブルを発生させた様子(発生した光マイクロバブルのほとんどを溶解させるために、水面には光マイクロバブルを浮上させないように調整しています。

 ⑤:魚群探知機によって、光マイクロバブルの滞留、流動を究明することを最初に行ったのは広島湾のカキ筏上でした。

 これによって、光マイクロバブルがカキ筏の下に潜り込んで流動することを見出すことができました。

 このように魚群探知機を用いて、現地の海域における光マイクロバブルの発生と流動を観測したのは、おそらく初めてのことではなかったかと思います。

 この方法を大船渡湾に適用して、光マイクロバブルの流動状況を調べました。

 今度は、小舟に乗って移動しながらの観測であり、その追跡は非常に難しいものでした。

 ご指摘のように、現地の海域においてはわずかな潮の流れがあり、その流動先を見つけるのに苦労したからでした。

 船上からの目視では、その流動方向が不明でしたので、それを魚群探知機で探りながら、船を移動していきました。

 また、その途中で船が風で流されていきましたので、その位置を修正しては戻ることを繰り返し、ようやく出来上がったデータでした。

 たしかに、このデータ観測においては、潮流の影響が考慮されていません。

 ほとんどわずかな潮流による流動しかなかったわけですので、ご指摘のような問題はありましたが、必ずしも、それでは意味がないということではないと考えています。

 なぜなら、私どもが知りたかったのは、何はともあれ、現地において、光マイクロバブルが、どこまで、海中の各水深において、どのように拡散しているのか、についてでした。

 これによって、その時の光マイクロバブルの拡散距離が50m前後であることがようやく判明しました。

 光マイクロバブルは、その発生直後から収縮を開始し、わずかに上昇しながら海水中に溶存していくという過程をたどります。

 この間の寿命は、およそ1分弱前後です。
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        魚群探知機画像(光マイクロバブルが白く映し出されている)

 しかし、実際の海域においては、104機の装置によって光マイクロバブルが大量発生していましたので、それよりも寿命の長い光マイクロバブルも存在していたと思われます。

 この結果と併せて、この時の光マイクロバブルの拡散範囲は約50m、そして光マイクロバブル水として溶存を果たして溶存酸素濃度を向上させて拡散した範囲が約200mであったという、およその結果を示すことができました。

 この結果は、いろいろと問題点はありながらも、意味のないものではなく、それを踏まえてより厳密により精緻なデータを取得していく、一つのステップであると考えています。

 なお、現地のおける潮流の精密観測は、非常に難しく、表層においては風の影響受けて、その深部では逆の流動がありますので、それらを考慮した観測を行う計器もなく、諦めざるをえませんでした。

ラプラス・ヤングの法則に関する問題

 なお、ラプラス・ヤングの式について言及されていますので、それについても、少し解説しておきましょう。

 周知のように、この式は、気泡内の圧力が表面張力に比例するという単純なものです。

 この式に基づいて、機械的に1ナノメートルの気泡の圧力を算定するとその気圧は1万気圧、温度もおよそ1万℃ということになります。

 これは、ナノサイズの太陽が形成されたことになります。

 しかし、そのような太陽形成が本当に起こっているのでしょうか?

 また、そこまでには至らないにしても、ナノバブルやマイクロバブルのなかで数千度、数千威圧の高温高圧場が起こると平気に述べていた方々もいました。

 その根拠として、超音波現象のなかでの気泡の圧壊現象において、そのような高温高圧場が形成されていることをオーム返しにして、そのまま適用し、その数千度、数千気圧がナノバブルやマイクロバブルで形成されるという、根拠のに乏しい主張がなされていました。

 たしかに、マイクロサイズの気泡の収縮によって、内部の圧力や温度が増加することは推測できますが、これにかんしては、次の問題が存在していました。

 ①なぜ、気泡が収縮するのか?その理由やメカニズムが明確でない。

 ②その収縮においては、瞬時の短期間収縮なのか、それともかなりの長時間収縮なのか、この区別がなされていない。

 したがって、前者にいけるよりアクティブな挙動と後者における緩慢な収縮の挙動の区別がなされていない。

 ③収縮に伴う高温高圧化の具体的なプロセスが明確でなく、その詳しいメカニズムが究明されていない。

 ④それらの気泡内における物理化学的変化の過程が追跡されていない。

 具体的には、1)常温常圧下から、2)加温加圧状態、3)化学反応が生起する高温高圧状態(数百度、数百気圧)、4)存在するとすれば、数千度、数千気圧の状態など、のそれぞれが明確に究明される必要がある。

 ⑤この高温高圧化において、筆者は、光マイクロバブルからナノバブルへの定性定量的変化が起こるの尾ではないかという仮説を有しているが、その仮説には妥当性があるかどうか?

 ここで重要なことは、上記のように、マイクロサイズおよびナノサイズの気泡内においては、1)常温常圧の状態から、2)、3)、4)のそれぞれの過程を必ず通過して変貌していくはずです。

 そのことを認めるのであれば、この1)~3)の過程を究明することなしに、4)の状態を明らかのすることはできないはずです。

 すなわち、いきなり4)のことを説明することは、極めて乱暴であり、科学的検証のない軽薄な見解といわざるをえません。

 この見地に依拠して、私たちは、光マイクロバブルが短期間の急激な収縮に伴って、高温高圧化し、その反応場として約500℃、300気圧という超臨界場が瞬間的に形成されることによって、化学反応が生起することを明らかにしています。

 この結果は、非常に重要な問題と深く関係していて、ここに、光マイクロバブル研究の奥の深さと素晴らしい未来性を示唆させています。

 そのことが、1995年以来の光マイクロバブル研究のロマンをさらに豊かにしているように思われます。

 Mさん、いろいろと、ありがとうございました(つづく)。

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夕宵の小城山(散歩の途中で撮影)