「イノベーションの本質(1-13)」

Mコメント(2)

 さらに、Mさんから寄せられたコメントに対する回答を続けましょう。

 今回は、下記の赤字の部分について検討します。

 「『JSTが掲載している「Science Portal(科学の入り口)』というブログに『ナノバブルは泡ではない』という記事が載りました。

 https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20240725_n01/

 九州工業大学と九州大学がJSTの助成を受けて研究を行い、450ナノメートルの気泡を『暗視野顕微鏡』で観察したところ、8時間後には多くのナノバブルが底に沈むことが判明したとのことです。

 『空気は水の1000分の1から100分の1程度の密度で軽い。水より重い気体は存在しないのでナノバブルは非ガス粒子であることが分かる』とのことです。

 ISO技術委員会は『ウルトラファインバブル(直径1µm未満)は液体中でブラウン運動により長期間漂う』と書きましたが、それを否定する観察です。

 もしそうならば、水中の溶存酸素は増加せず、全部底に沈み、酸欠状態は改善されない筈ですが、実際には大船渡の観察記録にあるように養殖場のDOは300メートルの範囲で拡散し、カキの成長を促進しており、間違いなくDOは増加しています。・・・・


ナノサイズの非ガス粒子の正体は何か?

 「ウルトラファインバブル」という呼称は、その実体が解りにくく、適切でないと考えていますので、ここでは、ナノメートルサイズの気泡のことを「ナノバブル」と呼びます(ウルトラファインバブルと同一)

 このナノバブルは、長時間存在していることが重要な特徴の一つして言われていますので、その理由付けのひとつとして「ブラウン運動」で説明されています。

 これに関しては、ナノバブルの動的挙動が明らかになっていない段階ですので、「一応の説明」に留まっているのではないかと思われます。

 それよりも、より本質的な問題は、そもそも長時間存在し続けることができるのか?

ということにあります。

 この問題を考察する際に、非常に重要なことは、ナノバブルの挙動は、すでに述べてきたように、静的なのか、それとも動的なのかということを明察することです。

 ナノサイズの気泡になると、その表面張力は非常に大きくなり、その気泡のなかの気体の圧力と温度が相当に大きく、そして高くなることが素直に考えられます。

 この高温高圧化のナノバブルにおいては、その寿命は非常に短く、容易に液体中に溶解してしまうことが推測可能であり、自らを長時間維持することはできません。 

 しかし、マイクロバブルからナノバブルに至る過程において、その高温高圧下で化学反応が起こり、その合成物(「カス」みなたいなものと表現していた)が生成して、ナノサイズン粒子になるのではないかという仮説を密かに有していましたが、どうやら、この仮説はやや的を射ていたようですね。

 この化合物は、当然のことながら水よりも重く、それが長時間を要して底に沈むという観察結果にも無理はなさそうです。

 その意味で、この結果に関しては、おもしろいという感想を持つことができました。

 さて、次の問題は、ご指摘の溶存酸素濃度のことです。

 この化学反応において、その化合物が合成される際に、酸素を消費しますので、液体中の溶存酸素濃度は低下します。

 それゆえに、溶存酸素濃度が増加することはありません。

 そこで、大船渡湾の計測結果が引用され、そこでは増えているではないかというご指摘がなされていました。

 この増加は、非ガス粒子の形成と矛盾するではないかという見解については、次のように補足説明をしておきます。

 大船渡湾は、南北に約7㎞、東西に約200m、深さは30m前後の内湾です。

 これを俯瞰すれば、浅くて細長い湾ということができます。

 私どもが実験を行った場所は「蛸の浦」であり、そこは大船渡湾の中間点からやや南に下がったところでした。

 ここの岸から、約80mの水域に光マイクロバブル装置104機を設置してカキの生育実験を行いました。

 この場所の水深は約10mでしたので、ここから、北西方向に観測点を100m、300mと距離を取って溶存酸素濃度を計測していきました。

 ご指摘のように、その300mの地点の水深は30mを越えていますが、その底付近で溶存酸素濃度が若干増えています。

 これは、光マイクロバブルの溶存効果ではなく、より上流からの溶存酸素濃度のやや高い海水が流下して、その若干の増加がなされたと判断しています。

 なぜなら、この増加傾向は、300m地点のみのことであり、その下流の200m地点における同濃度の傾向とは異なっているからであり、光マイクロバブルの影響の外にあるといえます。

 このように、自然海域においては、その溶存酸素の濃度に関してもさまざまな要因がありますので、その特徴を、上記の精密な実験容器のなかの問題と比較するのは難しいと考えられます。

 しかし、おもしろい指摘でもあり、改めて、その大船渡湾の観測データをよく見直すことができました。

 以上を踏まえて、その非ガス粒子の正体は何なのか?

 そして、それがどのような化学反応によって生成されたのか?

 これらを究明することが非常に重要な課題だと思われます。

 これらがより科学的に究明されてくると、これまでのナノバブルに関する基本的な誤謬問題がより明らかになって、この研究の重要性がどこにあるかについても、より本質に近づいていくのではないかと密かに期待しております。

 何はともあれ、Mさん、ご指摘ありがとうございました(つづく)。

yuugure
夕宵(近くの駐車場から国東の森を見る)