「イノベーションの本質(1-12)」

Mコメント

 前回に続いて、Mさんから寄せられたコメントに対する回答を示しておきましょう。

 以下は、その該当する文書です。

 「『JSTが掲載している「Science Portal(科学の入り口)』というブログに『ナノバブルは泡ではない』という記事が載りました。

 https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20240725_n01/

 九州工業大学と九州大学がJSTの助成を受けて研究を行い、450ナノメートルの気泡を『暗視野顕微鏡』で観察したところ、8時間後には多くのナノバブルが底に沈むことが判明したとのことです。

 『空気は水の1000分の1から100分の1程度の密度で軽い。水より重い気体は存在しないのでナノバブルは非ガス粒子であることが分かる』とのことです。

 ISO技術委員会は『ウルトラファインバブル(直径1µm未満)は液体中でブラウン運動により長期間漂う』と書きましたが、それを否定する観察です。

 もしそうならば、水中の溶存酸素は増加せず、全部底に沈み、酸欠状態は改善されない筈ですが、実際には大船渡の観察記録にあるように養殖場のDOは300メートルの範囲で拡散し、カキの成長を促進しており、間違いなくDOは増加しています。・・・・」

 Mさん、大変おもしろい情報の提供とご指摘をいただき、誠にありがとうございます。

 ご指摘いただいた「ナノバブルは泡でない」というおもしろい結果については、後ほど、そのサイトの文章も含めてゆっくり検討いたしますが、これについて日頃から考えていることを少し紹介しておきましょう。

ナノバブルの謎が、またひとつ解け始めましたね

 ナノバブルの特徴について日頃から疑問に思っていることを述べておきましょう。

 第1に、ナノバブルが存在が明らかになったとしても、それが静的なものなのか、それとも動的なのかが明確にされていないのではないでしょうか?

 最初の頃によくいわれていたことは、その直径は180ナノメートルで、その数は10の7乗個もあるといわれていました。

 しかも、これらのサイズと量は、ほぼ不変で、その時間変化はないとまでいわれていました。

 これらの特徴を耳にして、「本当にそうなのか?」という小さくない疑問を持ちました。

 なぜなら、光マイクロバブルの場合は、常に動的挙動を呈していて、一時もじっとしていない、常に自己運動を行っている、これが私どもの観測結果から得られた事実だったからでした。

 そうであれば、ナノバブルも、同様の動的挙動を呈しているのではないか、そのことに理解が進まないのは、静的な画像のみを観察しているからではないか、あるいは、その動的観察手段を有さず、そのために、ナノバブルの動的運動特性を見出すことができていないからではないか、このように推察していました。

 あるいは、ナノバブルの研究者が、あまりにもマイクロバブルのことをよく理解していないからではないとも思っていました。

 最近になって、新たな観測方法が開発され、ナノバブルを時間的に連続して追跡し、ナノバブルが収縮していることを示す結果が明らかにされてきました。

 この結果こそが、ナノバブルが動的挙動を呈していることを示す有力な証拠であると思い、ナノバブルの歴史的研究の流れは、無駄に流れていなかった思いました。

 おそらく、この結果は、静的なナノバブルの撮影画像を基にしてナノバブルの特性を論じていた研究者にとっては、小さくない衝撃であったのではないかと思われます。

 ナノバブルが、収縮するのであれば、そこに小さくないエネルギーの発露があるはずであり、それが、重要な作用効果をもたらすことを容易に想像可能になるからでもあります。

 ナノバブルは長時間の寿命を有し、しかも、そこに重要な物理化学的活性が発揮されることを期待していた論者にとって、ナノバブル収縮の事実によって、それまでの見解を大幅に修正せざるを得なくなったはずです。

 しかし、より厳密にいえば、より重要なことは、そのナノバブルの収縮が、非常に短時間において起こるのか、それとも、ゆっくりとかなりの長時間を通じて起こるのか、これを見極めることです。

 前者であれば、それはより活性、後者であれば、かなりの不活性特性といえそうです。

 この特徴は、マイクロバブルにおいても同じで、短時間に収縮していく光マイクロバブルと短時間には収縮しないマイクロバブルが存在していて、その違いは、その発生方式に依存しています。

 第2は、そのナノバブルの物理化学的特性の問題です。

 単に小さいことがよいのではなく、すなわちナノサイズの気泡であれば、その特性において何らかの活性が期待されるのではなく、それによって、きちんと物理化学的特性が明らかにならないと、その素晴らしさは解らないのです。

 ある時学会で、「ナノバブルの物理化学的特性は何ですか?」と、その講演者に質問したことがありましたが、かれは「ナノバブルが存在するだけではいけないのですか?」と逆に聞き返してきました。

 その逆質問者は、ナノバブルがあるだけでよかったわけで、それ以上のことは何も考えていなかったようでした。

 しかも、ナノバブル論者は、長時間にわたってナノバブルが維持されているいいながら、それによる活性(たとえば高い負電位特性)を期待していたようで、その矛盾に気付いていない方もおられました。

 ナノバブルの重要性は、その物理化学的特性によって決まることであり、それを明らかにすることが、科学的本質に迫ることなのです。

 上記のMさんのメイルには、「ナノバブルが8時間後に底に沈んでいた」という、おもしろい現象が紹介されています。

 これを読んで、次の2つのことに注目しました。

 1)8時間後に沈殿していた。

 2)ナノバブルは、非ガス粒子である。

 たしかに、ナノバブル内部の気体が存在しておれば、それが沈むことはありません。

 それが沈んでいたという事実は、その沈殿物が非ガス粒子であると考察したことに科学的な無理はないように思われます。

 しかし、この結論に関しては、次の問題が存在しており、そのことがより究明されるとよりよいのではないでしょうか。

 ①もともと内部に気体を有していたナノバブルが、どのような物理化学的特性によって、非ガス粒子に変化していったのか。

 ②そもそもナノバブルの内部が気体であったのか?最初から非ガス粒子になっていたのではないか?あるいは、その気体成分はわずかで、そこに非ガス粒子の両方が存在していたのではないか?

 ➂8時間というのはかなり長い時間ですので、どのようにして気体成分が非ガス成分へと変化したのか、その時間はどの程度だったのか?

 物理化学反応結果として、それが非ガス粒子化されたのであれば、その反応時間はかなり短いはずであり、その反応後に長い時間をかけて沈んでいったのではないか?

 これらは、非常におもしろい問題と現象であり、次回は、さらに、それらにふかく分け入ることにしましょう(つづく)。

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レモングラス(前庭)