「イノベーションの本質(1-10)」

 マイクロサイズの気泡を大量に発生させる装置の開発過程は、次の2つに大別されます。

 第一期:既存のエアレーション装置を改良してW型のエアレーション装置を完成させた。

 第二期:W型装置をさらに改良して、マイクロバブル発生装置を開発した。

 すでに述べてきたように、この第一期においては、合計で13に及ぶ技術的改良がなされたことで特許を出願することができました。

 しかし、第二期における探究は、少しも実行できませんでした。

 なぜ、第二期における目標であった、マイクロバブルのみを大量に発生させることができなかったのでしょうか?

 じつは、それを裏返していうと、それは非常に困難な課題だったからでした。

 そのことは後になって明らかになりますが、その課題達成は、日本はおろか、世界中で挑戦されていたことだったのです。

 当時の私は、そんなこととは露知りませんでした。

kyuurinohatohana
キュウリの葉と花(緑砦館1)

ーーー さて、どうしようか? 

 この開発は、売り言葉に買い言葉で安請け合いで始まったが、なんとか、格別に優れた装置といわれていた既成の装置を乗り越えて、特許も出すことができた!

 その要請先の地元の中小企業の社長や県の工業技術センター長のMさんも、この開発成果を喜んでおられ、今後は、その実装配備がなされ、新たなビジネス展開がなされるのではないか。

 これは、初めてにしては、まあまあ小さくない成果ではないか。

 このあたりで区切りをつけて、以前の研究に戻ろうか?

 しかし、同時に、このような思いが湧いてきたのも事実であり、私特有の「迷い」が生まれてきていました。

ーーー 何度も徹夜して取り組んできたのだかあら、このまま止めてしまうのは、もったいないのかもしれない!

 既存の装置よりも、より優れた性能を有する装置を開発することができたものの、それは「よりましな改良」でしかない。

 なんとかして、マイクロサイズの微細気泡のみを大量に発生させることはできないか?

 しだいに、このような思いを抱くようになりました。

 その発生装置の開発は、どのようにすれば可能になるのか?

 そう思案してみたものの、有効な手掛かりはなく、それまで改良を積み重ねてきた「W型装置」の機構を参考にしながら、その問題点を究明していくことを通じて活路を見出していくしかありませんでした。

 A)W型装置の特徴は、毎分100~200リットルのマクロ気泡(直径数㎜)と毎分約0.1~0.5リットルの微細なマイクロ気泡を発生させることにありました。

 このマクロ気泡の発生を無くし、微細なマイクロ気泡のみをより多く発生させる新たな方式を見出す必要がありました。

 そのためには、まず気体の注入方法を改善するのpがよいのではないか。それを、どうすればよいのか?

 B)微細なミクロ気泡のみをより多く発生させることを可能にする新たな生成機構とは、どのようなものなのか?そこに接近していくために何が必要なのか、これらを考究していく必要がありました。

 そのためには、気体塊をリベット状の突起物に衝突させて微細気泡を発生させるというOHR方式から、そのリベットを撤去して、気液二相の旋回流体運動における旋回せん断力をより大きくしたが、それでも不十分であったことから、その主な原因は、気液二相流の旋回速度が十分に大きくなかったことになったのではないか?

 どのようにして、その旋回速度を大きくすればよいのか?

 これらの問題点を想起しながら、この壁をどう突破していくかの試行錯誤を繰り返しました。

 今振り返れば、マイクロバブルの発生原理に関する本質的理解に達していなかったのですから、そこにどうやって接近していくかで苦労することは、むしろ当たり前のことでした。
 
 そこで、この時点において、W型装置を開発することによって明らかになっていたことは、次の3点でした。

 ①気体と液体を混合させた気液二相流体を旋回運動させる。

 ➡気液二相流体の混合に伴って、その界面におけるせん断力によって気泡を発生させようとしたアイデアは合理的であった。

 ②その旋回速度をより大きくしようとしたが、それを促す羽板の曲がりを約2~4倍にしても、それでは不十分であった。

 ➡気液二相旋回流体の旋回速度が、あまりにも低すぎたので、これを大幅に増加させる必要があった。

 ➂マクロな気泡とミクロな気泡の発生量の比が100~200対1程度でしかなく、このマクロ気泡を発生させずに、ミクロ気泡のみを発生させるにはどうすればよいのか、その解決法が見出せなかった!

 まず、少量の毎分1~2リットル程度の気体のマイクロバブル化の方法を考案することが現実的であった。
 尚、毎分数百リットルの気体のすべてをマイクロバブル化することは非常に難しく、未だに達成されていない。
 これが可能になれば、光マイクロバブルワールドはさらに広大になっていくでしょう。

 真に「お先真っ暗」の状態でしたので、こういう状態のときは、あれこれといくつも考えるのではなく、まず、一つを改善してみよう、こう考えることが重要でした。

 その手掛かりとして、羽板での旋回成分の付与という方式を改めて、四方から気体を装置内に挿入させるというアイデアをひらめきました。
 
 これが、本開発における到達階段の14段目となりました。

 その模式図を下に示します。

 四方から送風機を用いて気体を注入させ、それを水塊と一緒に旋回混合させながら上昇させる、しかも、装置をメガホン形状にして先細り化することによって、より二相流体の上昇速度を増加させました。

 しかし、この方式によって、マイクロバブルが大量に発生するという現象は発生しませんでした。

 次回は、その理由について分け入ることにしましょう(つづく)。

ww-11

気体の注入方法に関する模式図