Mさんからのメイル
 
 先日の7月3日の記事に掲載した万華鏡(紫陽花)に関するコメントを、Mさんからいただきました。 

 「『万華鏡』を初めて見ましたが、この形は初めて見る、素晴らしい造詣です。ガクの直径は何センチ位ですか?

 シーボルトがオランダにアジサイを持ち帰り、それを「オタクサ」と呼んだそうで、これは『お滝さん』がなまったものらしいと聴いたことがありますが、先生の受け売りかも知れません」

 まずは、この質問に答えておきましょう。

 ガクの直径は、約2~3㎝です。

 全体の大きさも15~20㎝であり、比較的小さくて細やかな紫陽花といってよいでしょう。

 紫陽花には、いくつもの種類がありますが、この万華鏡は「ガクアジサイ」の一種のようです。 

 因みに、この万華鏡は、2012年に島根県の農家と県の機関において共同で開発された新種の紫陽花であり、その一株を出雲市の知人から贈呈されました。

 これを玄関わきの庭に移植したところ、どうやらそこが気に入ったらしく、毎年、美しい花を咲かせてくれています。

 さて、シーボルトが長崎に到着したのは1823年8月11日でしたので、すでに紫陽花の開花時期は過ぎていました。

 夏の暑い盛りであり、梅雨の季節も体験していませんでした。

ドイツと日本の降雨事情

 それから約110カ月が過ぎて、雨が降り続く梅雨という、ドイツ人にとっては真に珍しい季節に遭遇したのでした。

 この時期に、山々は濃い緑色に変身し、野原では稲作や野菜の栽培が行われていたのです。

    生まれ故郷のドイツでは、高い山が少なく、それによって前線が停滞することはありません。

 そこで吹く風は、すぐに通過していきます。

 それゆえ、ドイツ人のほとんどは雨傘を持っていません。

 雨が降れば、ヤッケで頭を覆い、その雨が通り過ぎるのを待たずに動く、これが基本的なスタイルです。

 この雨傘を持たない生活スタイルは、沖縄とよく似ています。

 沖縄の場合には、土砂降りの雨であっても、少し待てばすぐに止んでしまいますので、それを待てばよいわけですが、ドイツ人の場合は、ヤッケを着て雨の中を歩くというのが一般的な庶民のスタイルなのです。

 したがって、私もドイツ滞在中は、雨傘を持たずにヤッケを着て動き回っていました。

 さてシーボルトは、、雨の中で一際美しく咲き続ける紫陽花を見て、驚き、深く魅了されたことでしょう。

 ドイツの冬は寒く、春になっても温かい日はほとんどなく、その気候においては庭に花が咲くということはありません。

 3月、4月になっても花は咲かず、蕾になっても、そのままであり、それらが一斉に開花するのは5月になってからのことです。

 それゆえ、ドイツ人にとって花咲く春とは5月になってからのことであり、そのことはシューベルトが作曲した歌のなかにも反映されています。

 日本のように、2月から梅の花が咲き、3月は桃、4月は桜と花の季節が続いて、それらを楽しむ風情はほとんど存在していません。

 ましてや、長雨が続く梅雨もありませんので、その雨の中で美しく花咲く紫陽花を見せられ、シーボルトは小躍りするほどに熱く感激したことでしょう。

花の男

 植物分類学者の大場秀章さんは、著書『花の男 シーボルト』のなかで、シーボルトが日本の紫陽花に魅せられたことを、次のように記しています。

 「シーボルトはアジサイにHydrangen Otakusa(ヒドランゲア・オタクサ)という学名を提唱した。

 シーボルトは、オタクサの名の由来については触れなかったが、それは妻の滝の愛称、オタキさんに因むと考えられている」

 このように、Mさんの指摘されたことは、専門家も考えられていることのようで、どうやら正しいことのようです。

 このことを調べているうちに、ここでシーボルトの妻と称されている「オタキさん」のことが気になりました。

 彼女は、芸者であったとよくいわれていますが、その実際はどうであったのか?

 これについては、おやっと思うことがありました。

 次回は、シーボルトの紫陽花研究とともにオタキさんについても深く分け入ることにしましょう(つづく)。

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万華鏡(前庭)