「イノベーションの本質(1-8)」

 これまで述べてきたように、従来において最高の装置と思われたいたOHR曝気装置に関する特徴と問題点を明らかにしてきました。

 その結果、その3つの特徴と問題点を改善していくことの方針が、次のように定まりました。


Wgata

OHR曝気装置の構造模式図 

 ①羽板の曲がりを90度から360度に変えました。それに伴い、羽板の段数を1段から2段に変更しました。

 ②全体形状を2段に分け、下部は円筒状、上部はメガホン状とし、より円滑な流動を可能とする形状にしました。

 ③装置の材質は透明アクリル樹脂とし、内部を可視化できるようにしました。

 さて、これらの改善に伴って、次の3つの本質的問題が浮かび上がりました。

 A)より微細な気泡を発生させることができたのか?また、その微細な気泡の発生量を増加させたのか?

 B)水槽内における気液二相の流体をより促進させたのか?それを可能にするマクロな気泡の作用は、どのようなものになったのか?

 C)B)の水槽内の流動機構とA)の微細気泡の発生分布は、どのような関係を有するのか?

 これらの問題を本格的に究明するために、新たに立派な横長水槽を製作していただきました。

 この結果しだいでは、それまでの開発委員会において検討されてきたことが根本的に覆ることになりますので、非常に重要な実験として見なされていました。

微細気泡の発生機構

 そこで、新たに次の改良的特徴を有する試作機が開発されました。

 1)羽板の曲がり角度を360度で、上下に2段重ねる。

 2)最上部の円筒部の内壁にリベット状の突起物を填め込むようにし、また、それを取り外すことができるようにした。

 3)羽板部と円筒部の間の管を上部に向かって細くなるメガホン型にした。

 これらの改良の意図は、次の3点にありました。

 a) 気液二相の混合流体の旋回速度をより増加させた。

 b) この旋回速度の増加に気液二相流のリベットへの衝突速度をより大きくした。

 c)気液二相流の上昇速度をより大きくした。

 ここで、最初に検証されたことは、上記の2)に関することであり、すなわち、リベット状の突起物があった方が微細気泡を発生しやすいのか、それとも無い方がよいのか、このいずれかを見分けることでした。

 その結果が、前者であれば、OHR曝気装置の特許性が検証されることであり、逆に後者であれば、その特許性から外れることを意味していました。

 この時の私の予測は、おそらく、後者が真実ではないかということに傾いていましたので、その視点をより明確にして実験に臨んだことをよく覚えています。

 そこで、何度も、この実験的検証を繰り返し、そのことが徐々に明確になっていきました。

 ここで可視化実験における重要な視点の問題を述べておきましょう。

 自らの眼力によって、気泡という微細で常に流動しているものを対象にして、その特徴を見出そうとしているのですから、そこには、当然のことながら、ヒトとしての科学的認識の問題が影響します。

 すなわち、ヒトは、自分が認知していなかった問題に遭遇すると、最初は、それを正確に把握することがほとんどできない傾向があります。

 その科学的認識が進むと、なんでもない、簡単に解ることが、その最初においては、そんなに簡単なことではなく、その可視化を何度も繰り返し、これはどうか? いや、違うのか? やはり問題ない、そうだ、間違いないを繰り返しながら、その確証を高めていくことが重要なのです。

 私どもは、乱流という4次元空間で常に動き、変化していく現象を観察していましたので、自ずとそれによって眼力が鍛えられていました。

 たとえば、私のスタッフが、ある時、こういってきたことがありました。

 「先生、どうも現象の特徴が明らかにならず、この実験は難しいのではありませんか?」

 それは、乱流のパターンと流速波形を同時に計測して、その関係性を明らかにする実験でした。

 そこで、実際の可視化現象と流速波形を同時に観察しながら、私は、こういいました。

 「そんなことは、ありませんよ。乱流の秩序構造のパターンと流速波形の対応はきちんと取れています。

 みごとな対応ですよ。もう一度、その目で観てください!」 

 この結果は、その後、立派な楽器論文集として掲載されました。

 すなわち、この時も同じで、最初は、リベットがあった状態の微細気泡の状態と、それがない場合の状態の区別ができないという認識でした。

 素人か、可視化の眼力がない方であれば、すぐに、ここで諦め、「こんなもの、解るもんか!」といって投げ出しがちになります。

 しかし、私たちは、そこが違っていて、その現象を解るまで観続けて、少しずつ理解を深めていくのです。

 この方法は、次の通りです。

 まず、観ようとする特定の部分を定めます。

 この時点においては、そこしか観ることができませえので、その他の部分は除外されます。

 そこをじっと観ながら、そこでの気泡の挙動をじっと観察し続けます。

 この観察とは、①気泡のサイズ(直径)は、どのくらいか、②気泡の数は多いか少ないか、どの程度の数か、➂気泡の流動には、どのような特徴があるか、を認知していくことです。

 これが済むと、すぐ隣で同じ観察を行います。この時点においては、その前に行った観察のことは頭から除外されていますので、最初から上記の①~➂を繰り返していきます。

 こうして、すべての領域の観察が済んだら、さらにそれらを何度も繰り返していきます。

 そうすると、当初の識別が不可能だったことが徐々に可能になり、明確な認識が構築されるようになります。

 この認識に到達するには、それこそ延々と時間を要しますので、夜に開始した実験が、いつのまにか朝を迎えていたということが珍しくありませんでした。

 そして、その可視化実験の結果が明らかになりました。

 それを上記のA)~C)に照らして述べておきましょう。

 A)より微細な気泡を発生させることができたのか?また、その微細な気泡の発生量を増加させたのか?

 結果:リベットがない方が、より微細な気泡を発生させることができる。また、その微細な気泡の発生量も、リベットがない方が多い。

 しかし、これらの結論は、単なる可視化実験の結果であり、数値的な実証は行っていませんでした。

 B)水槽内における気液二相の流体をより促進させたのか?それを可能にするマクロな気泡の作用は、どのようなものになったのか?

 結果:マクロな気泡が、水槽内に気液二相流体全体の流動に寄与している。リベットがない方が、その流動を促進させている。

 その理由は、マクロな気泡のサイズと量が異なっていることに関係している。リベットがない方が、マクロな気泡のサイズがより小さくなり、その数も増えていて、それらが粒度促進を実現させたことにある。

 しかし、これも単なる監察結果でしかなく、数値的観測結果ではありませんでした。

 C)B)の水槽内の流動機構とA)の微細気泡の発生分布は、どのような関係を有するのか?

 マクロな気泡は、水槽全体の流動に寄与し、微細気泡は、その流動の中央部分(前記事の模式図参照)に滞留する。

 この現象は、ややおもしろいことでした。

 なぜなら、せっかく発生させた気泡がすぐに上昇して水表面に達してしまっては、その気泡による溶存酸素能力が低下してしまいます。

 しかし、この滞留によって、そこで水中内において溶存してしまいますので、これは好ましいことでした。

 こうして、これらの改良を行なうことによって、新たに「W型」と呼ばれるエアレーション装置を開発することができました。

 そして既存の特許装置を乗り越え、新たな開発商品として特許申請を行うことができました。

 また、その特許の取得も可能になり、初めての特許に関する経験を行いました(しかし、特許の出願者は地元企業でした)。
 
 ここが、最初から数えると12段目の階段を上ってきた到達点になりました。

 しかし、ここからが、非常に難しく、より辛酸を覚える探究が継続することになりました。

 以上のように、マット・リドレーが、イノベーションのことを「その影響はゆっくりと始まり、だんだんペースを速め、一定量ずつ効いていくのであり、飛躍的に進行するのではない」といっていますのが、そのように、光マイクロバブル発生装置の開発は、非常にゆっくりとした、いわば闇のなかでの開発に留まっていました。

 次回は、W型装置の特徴について、より科学的に分け入ることにしましょう(つづく)。

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紫陽花(前庭)