「破壊的イノベーションについて」
すなわち、破壊的イノベーションは、ほとんど起こりえない、これが、リドレーの確信的考察ということができるでしょう。
マット・リドレーは、名著『人類とイノベーション』のなかで、1995年当時のハーバード大学教授であったクレイトン・クリステンセンによる「破壊的イノベーション」に現代人がとらわれていることで、それが誤解を招く恐れがあることを指摘しています。
その根拠は、ほとんどのイノベーションは、ゆるやかなプロセスで進行していくのであり、「破壊的」というよりは、新しいテクノロジーが古いものを覆すときでさえ、「その影響はゆっくりと始まり、だんだんペースを速め、一定量ずつ効いていくのであり、飛躍的に進行するのではない」ことにあると述べられています。
アマラ・ハイブサイクル法則
そして、リドレーは、「アマラ・ハイブサイクル法則」という、次のおもしろい指摘を行っています。
「人は、新しいテクノロジーの影響を短期的には過大評価し、長期的には過小評価する傾向にある」
この法則の提唱者は、ロイ・アマラ(スタンフォード大学のコンピュータサイエンティスト、未来研究所長)です。
この典型的事例として、GPSが取り上げられています。
この技術は、もともとアメリカ軍によって開発され、兵士が補給を受けるために、その位置確認を行うために開発されたものであり、1978年から24機もの人工衛星が打ち上げられてきました。
しかし、この計画は成功せず、失敗に終わろうとしていました。
おそらく、そのGPSを用いての位置確認が素早く正確にできても、それを利用する機会が少なかったこと、他の方法でも位置確認が可能であったことから、その重要性が深く認識されなかったからではないでしょうか?
当初の期待度は、過剰にまで高かったのに、それが時の経過とともに、今度は反対に過小評価になり、最後は、民間への移転がなされるようになりました。
すると、この技術は、燎原の火のごとく波及し始め、今やスマホ、カーナビ、ハイカー、船、配達トラック、飛行機などたくさんの分野において活用されるようになり、GPSイノベーションが繰り広げられるようになりました。
さて、クリステンセンが、「破壊的イノベーション」の事例として取り上げた典型的技術は、電話、テレビ、パソコンの3つでした。
イノベーションはゆるやかな過程
しかし、これらについても、リドレーは、それらが急激な破壊的現象をもたらしたものではなく、「その影響はゆっくりと始まり、だんだんペースを速め、一定量ずつ効いていくのであり、飛躍的に進行するのではない」ことを詳しく解説しています。
しかし、この確信は、イノベーターにとってはなかなか受け入れがたい要素を有していました。
自分の発明は、素晴らしく、創造的破壊によって、急激な技術的イノベーション、経済的イノベーション、社会的イノベーションが起こるかもしれない、もしかしてそうかもしれないと思いたくなる、これがイノベーターの想念として浮かびやすいことなのです。
しかし、大概は、その夢が破れ、既得権を有する投資家、経営者、従業員たちに邪魔され、傷つきやすく、容易に踏みにじられれいくのです。
「発明者は骸骨になっていく」
これは有名なカール・マルクスの言葉です。
しかし、マドレーは、「状況が許せば、イノベーションは再び成長する」ことがあることを「歴史が証明している」のだそうです。
その状況とは、どのようなものなのでしょうか?
そして再び成長を遂げた事例とは何でしょうか?
これらは、イノベーションの本質に関係することだと推察できますので、次回においては、いよいよ、その本質に分け入っていくことにしましょう(つづく)。
コメント