「2001年宇宙の旅」から22年(8)
モノリスの科学(4)
モノリス村のオンディーヌによる火の発明の話は、たちどころに村中に、そして地域から地域へと、それこそ燎原の火のように拡大していきました。
「モノリス村には、なにかしら、触るとここちよい石の像があるらしい。それに触れたくて村中の人々が集まって行列をなしているらしい。
その村では、ある女性が火というものを作ったそうである。
これを料理に使ってたいそう美味しい食事ができるようになったらしく、その女性の料理が評判になっているそうだよ。
それだけではないよ。男たちは、その火とやらを狩りに使っているらしいよ。
猛獣たちは、その火が恐いらしく、火を見ると襲ってこないらしいよ」
「そんなすごいものが、モノリス村にあるの?ぜひ、行ってみたい!」
「おれは、オンディーヌという火の発明者に会って、火の作り方を教えてもうらいたい、それから、オンディーヌさんが作った料理をたべてみたい。
何を持って,いったら、食べさせてくれるかな?」
これを「評判が評判を呼ぶ現象」という現象なのでしょうか?
またたかくの間に、名もないホモ・ハビダスの女性であった「オンディーヌ」は、時の人になりました。
ギリシャ神話においては、これが「プロメテウスの火」として語られています。
若くて正義感に溢れた神のプロメテウスは、全能の神として君臨していたゼウスの専横に批判的でした。
その神の国においては「絶対に、人間に火を与えてはいけない」という掟がありました。
プロメテウスは、人間にも火を与えるべきだと考え、ゼウスにわからないように、どうやって火を与えるのがよいのかを考究していました。
そして、ようやく思いついたのが、河原に生えている葦の茎のなかに火を封じ込めて人間世界に投げ落とすことでした。
葦のなかですと、落下中に火が消えることはありませんでした。
やがて、暗闇の地上には、あちこちで火が灯るようになり、笑い声さえも聞こえてくるようになりました。
これを知ったゼウスは、かんかんになって怒り、プロメテウスを岩に縛り付けて鷲たちに食べさせようとしました。
このひどい仕打ちに、今度は若者たちが黙っていませんでした。
プロメテウスの友人であったヘラクレスは、勇猛な弓矢の達人でしたので、その自分の弓で鷲たちを打ち落としました。
こうして若い勇猛な神々によって全能の神ゼウスは失脚していきました。
この逸話から、プロメテウスは、巧みに葦のなかに火を封じ込めたことで「技術の神」と呼ばれるようになりました。
しかし、ホモ・ハビダスの世界においては、オンディーヌこそが技術の神だったのです。
偶然にも、石を砕いていた時に火花が散り、それが枯草に飛び火して燃え上がったことから、その火を持って帰って料理に使い、夜には暖を取ることができたのです。
ここで火を得たホモ・ハビダスたちに、非常に画期的なことがおこりました。
それは、それまでの夜間における樹上就寝から解放されたことでした。
弱いホモ・ハビダスにとって夜は、猛獣たちが襲ってくる時間であり、それから逃れるには樹上しか安全な場所はなかったのです。
夜は気温が下がり、凍えながらの就寝でしたが、自分の身を守るためにはいたしかなかったことであり、そのために、ホモ・ハビダスの前身は猛獣たちと同じように全身毛で覆われていたのでした。
オンディーヌは、夜になっても、火の回りでうれしそうに遊んでいた子供たちが、そのまま寝入ってしまったので、どうしようかと不安になっていました。
周りを見渡しと、たしかに猛獣たちがいるような気配を感じていましたので、これまでのように木の上に登ろうと夫に提案しましたが、かれは、こういいました。
「たしかに、猛獣たちが周りでうろうろしているが、この火があるために決して近づこうとはしないようである。
おそらく、この火が恐いんだよ!今夜は、ここで、この火を燃やし続けてみよう!」
彼女は、この夫の提案を受け入れましたが、それで怖さが減じることはありませんでした。
火を絶やしてはいけない、こう思いながら、焚火を続けたのでした。
そして朝になり、猛獣たちは、いつのまにかいなくなっていました。
代わりに、父母や親戚、そして友人たちも集まってきました。
「オンディーヌ、凄いね!猛獣たちが、この火の周りに集まっていたのに、決して近づかなかった、この火の威力はすごいね。
今夜は、私たちも試してみよう」
こうして、大切な火が、次々に受け渡されていきました。
火を貰うには、何の代償も必要なく、枯れ木があればよかっただけでしたので、この火の利用は、瞬く間に拡大していきました。
これこそ、火のイノベーションが起きた瞬間だったのです。
次回は、そのホモ・ハビダスたちが、その「プロメテウスの火」を手に入れて、どうなっていったのかに分け入ることにしましょう(つづく)。

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