「2001年宇宙の旅」から22年(7)
モノリスの科学(3)
モノリスに最初に手を触れたのは、好奇心旺盛で勇気ある男性の若者でした。
見たこともない、巨大なモノリスの石碑は雄々しく神のような気配を放っていました。
恐る恐る、いつでも逃げ去ることができるように、しかし、自らの手で触ってみたい、恐さよりも好奇心の方が打ち勝って手を伸ばしてみると、それは温かく、いい知れないやさしさを感じたのでした。
さらに、手を強く推し付けてみると、今度は、そこからここちよさが伝わってきました。
モノリスから発生した不可思議な気体に触れることによって、掌の表面に形成されていた末梢血管における血液の流れが促進されたからでした。
同時に、掌の表面にあった神経が刺激され、そこから脳へと、その「ここちよさ」を生み出した神経伝達物質を通じて伝達されていきました。
この若者が、あまりにもここちよさそうにモノリスに触っていたのを見かけた、恋人の女性のホモ・ハビダスは、自分もモノリスに触ってみたいと思うようになりました。
こうして二人の恋人同士が、ここちよくモノリスを触って過ごしていたことから、モノリスは、恋人の石碑として見られるようになりました。
やがて恋人の友人たちが集まるようになり、モノリスの周囲は恋人同士の集いの場と化していきました。
さらに子供たちや大人たちも集まるようになり、モノリスの前には長い行列ができるようになりました。
そのホモ・ハビダスの集団がやがて100名を超えると、この噂話が一挙に広まっていきました。
そして、遠くからホモ・ハビダスたちがモノリス見たさ、触りたさで集まってくるようになり、そこにモノリス村が形成されたのでした。
同時に、モノリスを触り続けていたホモ・ハビダスが徐々に変わり始めました。
その最初は、女性たちでした。
彼女らの最も重要な役割は、男たちが集めてきた獲物を上手く料理することでした。
生していたのは、動植物に対して生理活性作用をもたらす物質ではないか?
そのために、石同士をぶっつけて切り裂き、その尖った部分で肉や植物を切って料理をしていました。
なんとか、鋭い切れ味の石を造ることができないか、彼女らの頭のなかには、この問題が過っていました。
オンディーヌ
オンディーヌと呼ばれる、ある食事作りの上手い女性がいました。
彼女は、時間の余裕があるといつも石が転がっている河原に行き、石同士をぶっつけて砕き、割れた石のなかから料理に使える切り石を見つけていました。
何度も石を投げてはぶっつけていました。
そのなかに、石同士がぶっつかった際に、火花が出る石があることを見つけました。
しかし、その時に彼女は、火花が出ても、それをおもしろいと思っただけで、それで何も思い浮かぶことはありませんでした。
ところが、ある日、同じように石同士をぶっつけて砕いていると、その瞬間に火花が出て、それが付近の枯草に飛び火して燃え始めたのでした。
オンディーヌは吃驚して腰を抜かしましたが、それで逃げ出してしまう彼女ではありませんでした。
その燃え続ける枯草を観て、彼女は、こう閃いたのでした。
「温かい、これは、あの『モノリス』を触ったときの温かさと同じだ!
これを持って帰ろう。
何かに使えるかもしれない」
オンディーヌは、火が灯された木片を大切に持って帰りました。
そして、台所で、その火に小枝を投げて燃やしました。
今度は、そこに彼女の夫がやってきました。
子供たちも集まってきました。
最初は、みな驚いて近寄りませんでしたが、徐々に慣れてくると、その火は安全で温かいことを理解すると、そこから離れなくなりました。
すでに、温かいここちよさは、モノリスによって与えられていたものと同じであり、彼ら、彼女らには、その学習効果が作用していたのでした。
温かい、ここちよさが火の発明を導いた
火を囲んでの温かいここちよい刺激が、ホモ・ハビダスたちの脳に作用し、その右脳から新たな創造が生まれることになりました。
オンディーヌにおいては、その火を料理に使うことを考えさえ、その夫は、それを狩りに利用すること、そして子供たちは、これまで樹上で寝ていたことを止めて、その火の傍で就寝することを促したのでした。
猛獣たちは、地上にホモ・ハビダスたちが寝ているのを見つけて、襲いかかろうとしましたが、火が燃えているので近づくことはできませんでした。
こうして道具としての火が誕生することになりました。
モノリスの温かいここちよさが、その道具の発明に重要な寄与をもたらしたのでした。
次回は、そのホモ・ハビダスたちが、その「プロメテウスの火」を手に入れて、どうなっていったのかに分け入ることにしましょう(つづく)。

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