5500回記念を迎えて(5)

イノベーションの謎
 
 マット・リドレーは、イノベーションには次の3つの謎があると説いています。

 ①イノベーションがなぜ起こるのか?
 ②どうやって起こるのか?
 ③いつどこで起きるのか?

 しかも、これらの謎は、セレンディピティー(偶然の幸運)と深く関係していると述べています。

 そのことを光マイクロバブルの場合に照らし合わせて考えてみましょう。

 「光マイクロバブルのセレンディピティー」

 それでは、光マイクロバブルの場合においては、このセレンディピティー(偶然の幸運)がどのように作用したのでしょうか。

 その光マイクロバブル技術は、「いつどこで起こったのか」、そして、「それはなぜ起こったのか」、「どうやって起こり、どのようにこれからも起こるのか?」、さらには、それは、はたしてイノベーションといえるのかどうか?

 これらについて、より詳しく考察することにしましょう。

 1980年代初頭に戻って

 私は、1976年にT高専に赴任しました。

 1980年代初頭といえば、それから数年を経過したころのことでした。

 水理実験室の創設を終え、共同研究者の助手の先生も加わって、これから乱流研究に勤しもうとしていました。

 このころに、当時のY県工業技術センターのM所長から、地元周南市の中小企業による、ある排水処理に関する技術開発委員会への参加を要請されました。

 M所長とは、すでに知り合いの仲でした。

 その前任のT次長とM所長が懇意でもあったことから、どうやら、お二人同士で「私を修行させよう」という意向が働いていたようであり、その要請を快く引き受けることにしました。

 この技術開発委員会に委員として参加したことが、光マイクロバブル・セレンディピティーへと導かれる第1ステップでした。

 それまでは、実験室の創設、教員としての教育研究の準備に明け暮れていましたので、T高専から外に出かけていくことはほとんどありませんでした。

 世間知らずの、研究者としても自己確立がなされていない、若手教員、これらが私の正体でした。

 そんな駆け出しの私にとって、その技術開発委員会での議論は新鮮であり、非常に刺激的でした。

 しかし、その議論の内容には追随できず、しばらくの間は黙ったままでもっぱら聴き手役でした。

 しばらくして、その技術開発が行き詰まり、その問題点が議論されるようになりました。

 それは装置内の空気と水の流動に関することでしたので、これに関する問題点をよく理解することができました。

 それは、そこで用いられていたエアレーション装置の設計基準であった3m以上を順守したあまり、縦長の水槽にしてしまったことにあり、その気液二相の流体が、その上部に留まって上下流の流動が発生していないことにありました。

 私にとっては、その当然のことを指摘したのですが、みなさんは、そのことをよく理解できなかったようで、ここで、その開発委員会は停滞してしまいました。

 そこで、その打開策として、その縦長水槽の気液二相流体の流動を可視化して、その問題の流動を見せることができるので、その可視化水槽を作ってくださいというと、なぜか、この提案は、すぐに受け入れられました。

 真に立派な透明アクリル製の縦型水槽が私の実験室に設置され、その実験が行われました。

 論より証拠とはこのようなことをいうのでしょうか、みなさんの目の前で、その上部でしか流動しない様子が顕わになりました。

軽口と安請負

 ここで、私の一言が、セレンディピティーへの次の接近をもたらすことになりました。

 「このようなエアレーション装置を用いたからですよ。これでは、あなた方の技術開発は実現できませんよ!」

 これには、傍にいた地元中小企業のY社長がすぐに反応しました。

 「それでしたら先生、もっとよいエアレーション装置を作ってもらえませんか?」

 まさに、売り言葉に買い言葉のごとく、私も即応して、こういい放ってしまいました。

 「ああ、いいですよ!」

 じつは、この軽口の返答が、私の光マイクロバブル研究の入口になったのでした。

 社長も社長、そしえ私も私で、何の見通しもないままに、安請け合いをしてしまったのでした。

 内心、一瞬「どうしようか」と思いましたが、そこで怯まず、前に進んでいったことがよかったのではないかと思われます。

 以上をまとめると、

 1)技術開発委員会に参加したこと、そこで問題点を見抜いて指摘したこと、

 2)さらに、その指摘を証明するために可視化装置を作ったこと、

 3)そして不用意にも、既存のエアレーション装置を用いたことを批判したこと、

 4)その批判を聞いた社長が、その改良装置の開発を依頼してきたこと、

 5)さらに不用意にも、それを即断で引き受けたこと、

 これらの5つのステップを経ていったことが、セレンディピティーの女神に知らず知らずのうちに接近していったようでした。

 結果的に、これでその階段を5つ上ったことになりましたが、じつは、それからが容易なことではありませんでした。

 
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    クンシラン(リビングにて)