第六報における視点(2)
今回の第六報(高専発のマイクロバブル技術(1))における第2の視点についての続きの解説を試みましょう。
以下は、その本文であり、赤字の部分が、本記事における該当部分です。
「第2は、現場における技術開発の目標達成が優先されたことから、微細気泡に関する物理科学的特性を究明することが、常に後追いで究明されるという過程を経たことである。
しかも、国内外に先行的な研究事例はなく、その装置開発、計測法、物理化学的特性、生物的機能性などの関しては独自の手法を見出し、評価・確立する必要があった」
マイクロバブルに関する計測法について工夫した点を示しておきましょう。
まず、マイクロバブルに関する基本的な理解を明らかにしていく必要があります。
それは、マイクロバブルは静止した状態にあるのではなく、常に動き、変化している、すなわち、運動している物質だということです。
ですから、たとえば、顕微鏡のようなもので、それを眺めても、その急速な運動を可視化して、その本質を理解することは非常に難しいといってよいでしょう。
そこで、私が採用したのが、キーエンス社製のマイクロスコープでした。
この装置を用いると、いわゆる動画が撮影できますので、マイクロバブルの動的挙動を把握するのは、これしかないと思って、一連のものを、そのバージョンアップがなされるたびに、ずっと使用してきました。
そこで、レンズ型で、直接画像を映し出すことができた装置が出てきたときに、早速、そのデモをしていただきました。
当時、動く気泡を可視化した事例はなく、初めての経験だといっておられました。
こちらは、それを用いて、どう計測するかを頭のなかに、すでに描いていましたので、それをデモにおいて確かめたのですが、どうやら、その担当者は、それを理解していなかったようでした。
「はい、解りました。この購入を検討しましょう」
こう告げると、かれがおかしなことをいい始めました。
「これでは、計測できませんので、販売することはできません」
おかしなことをいいはじめたなと思って、再度、こういいました。
「こちらは、この装置でマイクロバブルを計測できるといっているのに、あなたは、できませんというのは、どういうことでしょうか?
その理由をいってください」
かれは、困ってしまい、何もいうことができませんでした。
「とにかく、これで十分に計測できますので、購入します」
そういっても、かれは最後まで納得していなかったようでした。
まるで、狐(きつね)に騙(だま)されているような顔でした。
それは、どうやって計測するかを頭のなかで詳細に描いているのか、それとも目の前の計測事情しか理解していない、この違いでした。
そして、この装置を購入後に、独自の計測水槽を設計、製作したのでした。
もちろん、これによって、マイクロバブルの動的挙動が明らかになり、そのデータ解析も可能になりました。
この装置を用いて、マイクロバブルに動的挙動に関する非常に重要な特徴が見出されました。
それは、マイクロバブルがゆっくりと水中を上昇しながら収縮して、小さくなっていく現象でした。
それまでの常識においては、「気泡が上昇しながら膨張していく」と見なされていましたので、その常識を覆す「非常識」の現象が明らかになったのでした。
「たしかに、ちっとも同じ姿は維持されていない。
時間の経過とともに、常に変化している。
これをどう上手く可視化するのか?」
N工場長
じつは、私の地元には、プラスチック加工の名人がいて、この方とは、私が学生時代からの知り合いとなり、とくにT高専に赴任してからは、この名人(N工場長)との付き合いがより親密になっていました。
私が、こんなものを造りたい、といえば、そこは、こうした方がよいと意見をいっていただき、オリジナルの水槽、マイクロバブル発生装置、計測水槽などをすぐに製作してくださいました。
技術好き、職人気質のNさんとは、互いに智慧を絞り、アイデアを出し合いながら、相談し合いました。
その工場との付き合いは、未だに続いています。
さて、そのマイクロバブルの計測水槽の設計に際しては、それが、静水でゆっくりと上昇していく様子を時々刻々可視化し、撮影していく必要がありました。
そこで、別の水槽においてマイクロバブルを発生させ、それを含む流体を、その計測水槽に取り込み、静水状態にしてから、マイクロスコープで追跡する、これが基本設計概念でした。
マイクロバブルのサイズは、100分の5~2㎜、すなわち約50~20㎛でしたので、それを鮮明に可視化する必要がありました。
そのために、マイクロスコープの倍率を100~400倍に上げなければなりませんでした。
周知のように、その倍率を上げていくと、可視化されたマイクロバブルの画像は、より不鮮明になっていきます。
しかも、その倍率が高いと、より高速の挙動として撮影された画面からすぐに出て行ってしまいます。
この問題をどう解決していくのか、ここが智慧の出し処でした。
計測水槽の奥行きは1㎝、マイクロバブルが上昇していく垂直方向の長さは10㎝とし、その
静水中でマイクロバブルが上昇していく様子を克明に追跡する必要があったのです。
この難関を突破(ブレイクスルー)しなければ、キーエンスの若者に顔向けできない、そう思いながら、その解決法を必死で探究したのでした。
次回は、その独創的な解決法の解説に分け入ることにしましょう(つづく)。
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