追悼・久松俊一先生(18)
  
 今回は、『私たちの高専改革プラン』における第二提言のなかの「日本高専ネットワーク」について少し言及しておきましょう。  
 
 このことについても、久松先生とよく議論したテーマでした。

 「高専が地域に根ざしてさまざまな協力共同を行なうことは、単なる地域貢献に留まらず、やがてはそれが高専教育の充実・発展に少なからずの効果をもたらし得る。

 その意味で、地域に根ざした高専の実現は、きわめて重要な今日的課題である。

 この高専づくりとそのネットワークを中心にした交流は、『日本高専』への発展に導かれる。

 高専の特徴の一つは、その共通性にあり、それを生かした高機能のネットワーク事業を発展させる」

 この文書において、非常に重要な観点が示されているのは、「地域根ざした高専づくり」の発展が「日本高専づくり」に到達していくという展望が示されていることです。

 高専が「地域に根ざす」ことを可能にする根拠は、次の4つにあります。

 ①全国の地方都市に設立され、そこを中心にして入学生を得て成り立っている。

 ②地域には、自治体、中小企業、市民、保護者がいて、それらとの密着型の地域協力の拠点としての役割と機能を有している。

 ➂小中学校、専門高校、高専同士の教育的連携が可能である。

 ④地域に根ざした新技術の開発が可能である。

 たとえば、山口県の場合には、国立大学が1で、高専が3校、大分県の場合は、国立大学が1で、高専が1校あります。

 このように、高専は、地方の国立大学とともに重要な高等教育機関として存立しています。

 また、その国立大学と大きく異なっていることは、高専には、地域の中学卒業生がほとんど入学してくるのに対し、大学の方は、その出身県の学生が入学してくる割合は、かなり低くなっています。

 その典型は、琉球大学であり、今では、沖縄県出身の入学者は、非常に少なくなっています。

 これに対して、沖縄高専への入学者のほとんどは県内出身者です。

 このことからも、高専が地域に根ざすことにおいて非常に有利な条件を有しているのです。

 それゆえに、高専が、地域に根ざすことを目的として、次のような事業を発展させていくと、予想しなかったような相乗効果が作用するようになります。

 1)高専の卒業生が、自分の子供を高専に入学させる。
 2)また、高専の卒業生が、専門高校の先生になって、生徒を高専への編入学を推薦するようになる。
 3)地元の自治体との連携活動が活発化する。とくに、高専卒業生が地元自治体に就職して、協力、連携の仕事が発展する。
 4)地元の中小企業からの相談活動の活発化、共同研究の推進、共同開発技術の出現が可能になる。
 5)出前授業、出前イベントに教員と学生が参加するようになる。
 6)地域の人々が、高専に集まってくるようになり、地域の文化拠点になっていく。
 7)これらの活動が地道に発展していくことによって、高専における教育研究力が向上していく。
 8)1)~7)の地域に根ざした高専づくりが発展し、その中核部分としての「地域に根ざした技術づくり」が創生、発展していく。
 9)同時に、高専同士の「地域に根ざした高専づくり」が全国的に呼応し合うようになり、その相乗作用によって、日本全体における高専による地域貢献活動が花開くようになる。
 
 ある時、ある高専の教員(後に校長)から、高専の未来をどう考えたらよいのか、その決め手の方策を示してほしいと依頼されたことがありました。

 私は、その時に、「高専の未来を背負うのは、地域に根ざした高専づくり」であると、ズバリ答えたことがありました。

 それは、全国の高専においてネットワークが整備されてきた今日の条件を踏まえると、ますます、それを具体化して、その実現を図る時期が来ているように思われます。

 また、全国の高専だけでなく、長岡、豊橋の両技術科学大学が参加することが重要ですと、N長岡技術科学大学長に提案したところ、非常に、それが受け留められていました。 

 この学長のご努力で、最近の高専に対する大規模予算措置が図られるようになったと効いています。

 この問題については、「21世紀における高専教育改革の展望(Ⅴ)」として、その考察と論文化を、近々遂行する予定です。

 地域に根ざした高専づくりという一隅の火が、全国津々浦々に灯されるようになり、日本高専として光り輝くようにする必要があるように思われます。

 久松先生、そうではありませんか?(つづく)。

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紫陽花(前庭)