荒野を進む若者たち(大谷の場合)

 このところ、日本の若者たちが元気に活躍されている様子が国内外で報じられています。

 少し前の大谷翔平、「二刀流」という新たなスタイルで、アメリカ国民を驚嘆させ、さらに熱狂させました。

 なにせ、野球の神様といわれたベーブ・ルース以来100年ぶりの快挙の更新が、日本人の若者によって為し遂げられつつあることで、かれらの常識がことごとく打破されていったことは痛快そのものです。

 残念ながら、今年のMVPには選出されなかったようですが、これにはアメリカ人なりの事情と心境が少なからず影響したのでしょうか?

 昨年、大谷はMVPを受賞しました。

 今年は、その昨年の成績をはるかに超えた立派な戦績を示しましたので、実質はMVP以上の快挙を為したといってよいでしょう。

 おそらく、そのブレイクスルーは、既存のMVPという概念をはるかに超えてしまったこと、しかもそれが、発展途上にある日本の若者の途方もない仕業であったことから、ある意味で、このような反作用が生まれたのではないかとおもわれます。

 周知のように、今年のワールドシリーズの優勝者はアストロズでした。

 そのファイナルシリーズを戦ったフィリーズの投手陣がアストロズの強力打線を抑えることができなかったことが、その敗因の一つでした。

 なかでも、1番アルツーベ、2番ペーニャ、3番アルバレスは強力で迫力があり、フィリーズ投手陣は誰も、かれらを完全に抑え込むことはできませんでした。

 ここでおもしろいことは、かれらは、いずれもアメリカ出身ではないことです。

 アルツーベはベネズエラ、ペーニャはドミニカ共和国、アルバレスはキューバと、いずれも低開発国出身です。

 おそらく、アメリカのメジャーリーグに憧れ、幼いころから野球一筋に打ち込んで鍛錬してきた成果が、この活躍に結びついたのではないでしょうか。

 とくに、アルツーベは、身長168㎝と背も低く小柄にもかかわらず、フルスイングによって200本以上の安打を4年連続で打ち、あのイチローに次ぐ成績を修めて、2017年にはアリーグMVPを受賞しています。

 まさに、自己鍛錬と努力の結果としてMVPに輝いたのです。

 そのアルツーベが、今年の大谷を絶賛しています。

 おそらく、今シーズンにおいて、かれが大谷と直接対決した想いを込めての本音の吐露だったのではないでしょうか。

 今年最初のアストロズ戦では、エンジェルスの打線の援護がなく、大谷は、0-1で降板、惜しくも敗戦投手になります。

 この暗雲を吹き飛ばしたのが第二戦であり、途中までパーフェクトの内容で、アストルズの強打者を完全に抑え込むのだという気力に溢れた投球で勝利しました。

 エンジェルスがアストルズに勝利したのはわずかに6回でしたが、そのうちの4勝が大谷先発によるものでした。

 この間、大谷とアルツーベの大戦がおもしろく、かれを仕留めることが勝利を得る鍵だったのではないでしょうか。

 アルツーベも、大谷に対しては闘志満々で、その強力なフルスイングで挑んできました。

 しかし、大谷の高速で大きく左へ曲がるスライダーが冴えわたりました(あの三冠王3回の落合が、「あのスライダーは打てない、大谷と対戦しなくてよかった」といわしめた)。

 さらに、それに加えて、今度は反対に右に食い込む高速ツーシームによって、あのアルツーベがきりきり舞いにさせられました(スライダーで空振り三振、続いてツーシームで見逃し三振)。

 このとき、アルツーべは、悔しそうに笑っていましたが、まさに、恐れ入りましたと脱帽したかのようでした(9月10日)。

 そして、この苦笑いが、全米に広がり、話題騒然となっていったのでした。

 おそらく、MVP男のアルツーベは、この苦笑いのなかに、大谷のすごさを直に感じ取ったのではないでしょうか。

 「MVPの次元を、はるかに超えた投球だ!」

 これが、後に大谷を絶賛するようになった理由ではないでしょうか。

 この大志なくば

 大谷の素晴らしさと凄さは、少年のころからめざしてきた二刀流をどこまでも通用させようと、体力と精神力の両方を探究し、その洗練に努めてきたことにあります。

 初めてプロ野球選手になったとき、そして初めてメジャーリーグの選手になったときには、それこそ一斉に、日本のプロ野球では持たない、ましてやメジャーではなおさらのことだ、あのベーブ・ルースのようなことができるはずがないと非難されたのでした。

 おそらく、ご本人も十分な自信はなかったはずです。

 しかし、難しい手術を乗り越え、腕力と体力を鍛えに鍛え、今日のように投げては打つことを可能にする心身を鍛え上げたのでした。

 投げては打ち、その翌日も打つという人並外れた体力を身につけたことが素晴らしく、それに挑戦した勇気も、大いに称賛に値するものだったのではないでしょうか。

 幼き頃からの夢の実現をめざし、その夢にふさわしい心身を鍛え上げて、アメリカはおろか世界中の野球の常識を覆し、この素晴らしい非常識を新たな常識に変えていったのですから、もし、あのトーマス・エジソンが生きていたら、同世代だったベーブ・ルース以上に評価をしていたのではないでしょうか。

 この大谷の大活躍は、真に称賛に値しますが、それをただ喜ぶだけでなく、そこから何を学び、そのエキスをどう身につけて成長していくのかが、より大切なことです。

 ここに、SHOHEIが投げかけた本質問題が横たわっています。

 次回は、この問題に深く分け入ることにしましょう(つづく)。

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              マンジェリコン(緑砦館1)