光マイクロバブル水で、油性マジックペンのマーカーが消える、消えない問題

 ヒトの肌に塗った油性マジックペンのマーカーは、塗った後から直後の10数秒間であれば、たしかに消えるのですが、それを過ぎてマーカー成分が皮膚の窪み部分にまで達して乾いてしまうと、もう、どのように擦っても、洗っても消えることはありません。

 私は、この現象を、すでに10数年前に見出していて、光マイクロバブル水、あるいはマイクロバブル水には、そのように優れた洗浄能力はないという結論を得ていました。

 わずか10数秒間の油性マジックペンのマーカーのトリックが、ある意味で巧妙に仕掛けられ、それにみごとに嵌められたのです。

 そこには、マイクロバブルであれば、あるいは、ナノバブルであれば、もしかして、そのような「とんでもない洗浄力」を持っているのではないかと感じてしまう「日本人の情緒的特徴(弱点)、『イデオロギー』ともいう」があったのではないかと思われます。

 ましてや、シャワーでマイクロバブル、あるいはナノバブルを発生させると、ほんのわずかな時間で、そして少ない数のマイクロバブルが瞬間的に通過していくだけのことですから、それによって油性マジックペンによるマーカーが消えるわけがないのです。

科学的理解において洗練されていない

 ここに科学に伝統的に親しんできた欧米人との違いがあります。

 かれらの歴史においては、科学や技術が、いかに大切なのかを身をもって体験してきています。

 たとえば、中世の王様のなかには科学好きの方がおられ、大衆の前で科学実験を行う、あるいは科学を用いた対決実験を行って見せる方もいました。

 また、その結果を文章にしてきちんと残すことにも優れていて、世界三大発明の一つである印刷技術を産み出していました。

 それゆえに、幼いころから科学的思考を行うことを訓練されてきていますので、このようなトリックには引っかからないのです。

 また、このような悪質のトリックを用いて、それを売りさばくことが、後々いかに信用を無くすのかをよく知っているので、このようなトリックビジネスに手を染めることはありません。

本末転倒の依頼

 あるとき、ある日本の業者が、私のところに、かってに装置を送ってきて、その効力を鑑定してもらえないかという依頼をしてきたことがありました。

 それは、「加圧溶解式」と呼ばれるマイクロバブル発生装置でした。

 こちらは、その鑑定を引き受けたわけではないので、しばらく放置していたら、そのうち何度も電話を掛けてくるようになりました。

 どうやら、その装置は、韓国で製造されたもののようで、それを日本で販売したいので、その評価を私に依頼してきたものでした。

 かれの執拗さから判断すると、それを手に入れるのに、それなりの苦労と払うべきものを払ったのでしょうか、それとなく断っても、なかなかあきらめませんでした。

 そこで、最後にこういってやりました。

 「その技術は、日本から持ち込まれたものですが、そのことを知っていますか?」

 「いや、知りません」

 おそらく、韓国で発明されたものとして説明を受けたのでしょう。

 「その装置は、日本で売れなくなったから、韓国に持ち込まれたものですよ。日本で、それを買った人たちの評判が悪く、よく使われずに放置されていますよ」

 「それも知りませんでした」

 「とくに、ペット業界では、少しもワンちゃんがきれいにならない、皮膚が改善しないという悪評判が定着してしまって、マイクロバブルといえば、ダメな装置だとよくいわれるまでになっています。じつは、その悪評判を変えるのに苦労しているのです。光マイクロバブルは、そんな安っぽく、効果のないものではないのです」

 ここで電話の対応の調子が変わり、穏やかな口調になっていました。

 「日本で悪評判に至っているから、誰かが、韓国なら大丈夫だろうと持ち込んだのだと思いますよ。それをあなたが、韓国から買い受けて日本で売りさばこうとしているのですよ。そんな悪評判の装置をあなたは販売できるのですか?」

 ここで、何も言えなくなったようで、その方は黙りこくってしまいました。

小学生との電話応対

 さらに、こう続けました。

 「あるとき、小学生から電話がかかってきました。お父さんが、マイクロバブルの風呂用装置を買ってくれて、毎日、白い泡のお風呂に使っていると喜んでいっていました。その少女は、そのことを私に報告したかったようでした」

・・・・・

 「今、白い泡のお風呂といっていましたね。それは、湯船が白い泡で真っ白になったということですね。それは、『加圧溶解式』と呼ばれるマイクロバブルの発生方法で発生させたものですよ。その装置は、私が開発したものではありませんので、その泡の効果については、私の意見をいうことはできません。ところで、その装置は、相当に高かったでしょう」

 相手が小学生だったので、傷つけないように慎重に言葉を選びながら返事をしました。そして、彼女が告げた装置の価格は、次の通りでした。

 「50万円!」

 お父さんが、しっかりお金を貯めて購入されたのだと思いますので、それ以上のことは解説せず、それで電話を終えました。

 こんな話をしてあげると、その韓国産の装置を販売しようとしていたかれの気持ちは、相当に萎えてしまったようで、私への依頼を行う気力を失ってしまったようでした。

 すなわち、最初のトリックが、その「白い泡」だったのです。この「白い泡」を堂々とビジネスになさっている企業がいくつもありますので、かれらは、自分自身で「白い泡のトリック」に嵌ってしまった方々といってよいでしょう。

「白い泡」のトリックと同質の問題

 その代表的な企業が、P社、I社、T社などです。

 かれらが、口を揃えていうのは、温熱効果と癒し系効果の2つですが、後者については、その関連の担当者が、次のようにいっていたことを思い出します。

 「株式会社ナノプラネット研究所製の光マイクロバブル発生装置は生理活性、私どもの装置は『癒し系』で売り込みます」

 その売込みおいて「白い泡のトリック」に嵌ってしまった企業がいくつもありますので、この事実からも、日本の企業も科学に弱いという側面を有しているようですね。

 さて、前記事からの続きを示すことにしましょう。

 ペットボトルやヒトの皮膚に油性マジックペンで描いたマーカーは、10数秒以内であればすぐに消え落ちるが、それを過ぎると少しも消えなくなります。

 それゆえに、上述のトリックは、10数秒以内において成り立つ話です。その意味で、科学的には、10数秒以内で成り立つ現象といえますので、偽りはないということができます。

 しかし、そのトリックを用いて、あたかもマイクロバブルあるいはナノバブルによって油性のマーカーが消えるとまでいうことには、明らかに「だまし」が含まれていて、悪質といってもよい誇大宣伝になっているといってよいでしょう。

私のマーカー試験の結果

 これは、実際に試してみればすぐに解ることであり、私自身は、ずいぶん前にそのことを確かめていました。

 その後、企業から、高圧洗浄にマイクロバブルが有効かという問い合わせがあり、再び、その油性マジックペンを用いた実験を再開しました。

 最初の塗る相手としてタイルを用いました。

 これは、すぐに油性成分が浸透しますので、数秒以内においても、そのマーカーを消すことができませんでした。

 小さなくぼみや隙間がたくさんあるタイルでしたので、光マイクロバブル水では少しも消すことができませんでした。

 続いて、床タイルの実験を行いました。

 実際の床に、油性マジックペンで小さいマーカーを付け、そこに光マイクロバブル水を塗って擦ってみましたが、これも少しも消えませんでした。

 床タイルにも小さな凹凸があったからでした。おそらく、この凹凸を付けて滑らないようにしていたのでしょう。

CDケースの謎

 ほかに、何か良いものはないか、研究室を見渡していたら、CDのケースがありました。

 おそらく、これもダメなのではないかと想像しながら、油性マーカーを塗ってみると予想外のことが起こりました。

 これには驚きました。

 塗った後にしばらく放置してから、光マイクロバブル水を注入して擦ると、すぐに消えるではありませんか!

 なぜか?

 ここで、しばらく考え込みました。

ーーー やはり、表面の滑らかさの違いか?そうしか考えられない。

 この推察は、正解でした。

 そのCDケースの表面をマイクロスコープで拡大可視化してみると、その表面が滑らかであり、ほとんど凹凸がないことが判明しました。

 表面を滑らかにして、手触りや光の反射をよくして購買者に注目していただこうという配慮がなされていたのだと思います。

 さて、ここで今一度整理を行いましょう。

 ①ヒトの肌 10数秒以内であれば、油性マーカーは消える(普通の水でも消えるので、マイクロバブルの有無は関係しない)

 ②建築用のタイル 油性マーカーを塗った直後から消えない。凹凸がたくさんあるから。

 ③床タイル 油性マーカーを塗った直後から消えない。凹凸がたくさんあるから。

 ④CDケース 油性マーカーを塗ってしばらくしても消える。ほとんど凹凸がないから。

 以上の結果から、油性マーカーが消える、消えないという問題は、塗る側の表面の凹凸の問題に関係していることが明らかになりました。

 それでは、もっと凹凸のない材料はないか?

 それを探し出して、この仮説を、さらに正確に確かめることにしました。

 最後に、この記事のために私が行った油性マーカー実験の結果を示しておきましょう。

 最初に、私の左手に油性マジックペンで塗ったマーカーの様子を示しておきましょう。

 しっかり油性マーカーを塗りつけました。

 次は、塗った直後から25秒前後経過した後に、水道水を注いで消した跡を示します。

 このマーカーを塗って、カメラで、それを撮影してからですので、やはり25秒ぐらいかかりました。

 10数秒から時間がやや経過しましたので少しマーカーの跡が残ったままになっていますが、そのほとんどは、消え落とされています。

 そしてわずかに、凹地のところに油性マーカーが残っているのも明らかです。

 ここで断っておきますが、この水道水には、マイクロバブル、ナノバブルが少しも含まれていません。

DSCN4855 (2)
油性マジックでマーカーを塗った直後

DSCN4857 (2)
マーカーを塗って約25秒経過後に水道水で洗った跡

 この結果からも明らかなように、それがマイクロバブルシャワーで消えるというのは、悪質なトリックで、人を騙す宣伝なのです。

 みなさん、この「悪質なトリック」に、まんまと騙されてはいけませんよ(つづく)。