カキ・ホタテ・アコヤガイの稚貝は密殖で育っている
北海道の水産養殖業者のHさんが、ある海底生物の密殖栽培の可能性を、専門家の先生たちに打診したところ、そのほとんどすべての方々が、それは困難と否定されたそうです。
そこで、私に、その可能性を問い合わせてきたのですが、私の場合には、すでに述べてきたように、その専門家の先生方とは異なる経験を有していましたので、むしろ肯定的に、それを考えることにしました。
もともと、カキやホタテ、そしてアコヤガイ、さらにはアワビにおいては、その稚貝段階においてはかなりの密殖状態で育てられており、それで問題はまったくない、これが長い間培われてきた経験則であり、栽培習慣になっていました。
稚貝段階においては、その酸素呼吸量が少なく、また、餌の取り込み量も少ないことから、それらを密殖状態においても何も問題は起こりません。
しかも、稚貝段階では、生来元気がよく、成貝よりも斃死率が極端に少ないのです。
これは現場で観察したことですが、大雨が降った後には、一時的に海の表層が酸欠状態になることがあります。
それを実際に計測してみると溶存酸素濃度が1~2ppm前後でしたが、それでもアコヤガイの稚貝は、ぴんぴんして元気そのものでした。
ここから、引き出された教訓は、密殖自体がよくないことではなく、密殖によって生じる上記の困難を解決できるのであれば、むしろ、それは飼手にとっては好ましいことではないかということでした。
その困難をブレイクスルーすることこそキー・ポイントだったのです。
そこで、さらに途方もない密殖が行われた事例を紹介しておきましょう。
そこは、ある県のH町で行われていたクルマエビの陸上養殖場でした。
ここは、かなり昔から、その海老の養殖が行われてきたようで、海の近くに大きな養殖池がいくつもありました。
その池には、海水が導入されるようになっていて、たしか半径50~100mぐらいの池が4、5個ありました。
ある業者が相談に来られ、それらの池に放流する稚エビを養殖したいといってきました。
その養殖池は、縦30m、横20m、深さ2mとかなり小さく、ここで稚エビを育てるのに光マイクロバブルを使えないか、それが相談内容でした。
すでに、その水槽には稚エビ(体長数ミリメートル)が大量投入されていました。
これを体長3~5㎝前後に短期間に育て上げ、その大きな養殖池に置換していく、これが彼の目論見でした。
通常でしたら、それは止めておいた方がよいですよ、といってもよかったのですが、そうしなかったわけは、次の事情があったからでした。
じつは、彼は、そのクルマエビの大量密植を敢行しようとして、いくつかの業者に問い合わせをして、ある業者のナノバブル装置の導入を決めていたそうです。
それはK市にある業者で、大学の先生と一緒に、彼らが言うナノバブル発生装置を開発したそうで、その装置が鮮度保持にも役立つとテレビにおいても報じられていました。
彼がいうには、そのK市にある業者が、その専門家と共に、その小型栽培水槽を見学に来られ、その時は、「大丈夫ですよ。きっと上手く行きますよ!」といって帰られたそうです。
ところが、その業者は、その後何も理由を告げずに、その水槽への装置の導入を自ら断ってきたそうです。
おそらく、きちんとクルマエビが育つかどうか不安になったからでしょう。また、その養殖の経験も不足していたからでしょう。
そこで彼は困り果てて、ある先生の紹介で私のところに来られたようでした。
周知のように、クルマエビは、底生生物であり、砂に潜って生活し、殻を脱いで成長していきます。
それゆえ、底質のなかとその上部付近の酸素濃度が不足状態になるとすぐに死んでしまいます。
その意味で、上記のような比較的狭い水槽において、その稚エビをすくすくと育てることには小さくない困難がありました。
陸上養殖の利点は、ある程度、クルマエビの成長に応じて餌やりや水温制御などが可能なことにあります。
しかし、一方で、頻繁に海水交換ができず、ここでは2週間に1回の割合でしか、それが行われていませんでした。
限られた予算で、彼の願望をどう叶えるか、こちらも真摯に考究し、新たな装置を開発することにしました。
そのK市の業者のように、最初は楽観的なことをいって安心させながら、いざ納入となると尻込みして断ってしまうという、あまりにもみっともないことをするわけにはいきませんでした。
なぜなら、私の尻込みは、光マイクロバブル技術の尻込みとなり、これまでのことが総崩れになってしまうという認識があったからで、そこに、なんとか活路を見出そうとしたからでした。
アイデアとは、このように、見かけ上追い込まれた状態に至ると、ふしぎにもひらめくものであり、その時も、それまでにないものが生まれてきました。
これについては、東南アジアにおいて盛んにエビの養殖が行われてきたことで、それが餌のやりすぎと各種の汚染水の流失に伴う水質悪化によって、不振に喘ぐようになってしまったことと関係していました。
そこで、この問題を打開しようと、私のところにいくつかの業者の問い合わせや訪問があった時期がありました。
彼らの多くは、自分が扱っている装置に私どもの光マイクロバブル発生装置を追加配備しようとしていました。
ここでいつも議論の焦点になったのは、その装置の影響範囲がわずかであり、そこに光マイクロバブル発生装置を配備しても、ほとんど何も解決しないということでした。
かれらの装置の影響範囲はせいぜい数メートルの範囲でしかありませんでした。
それでも、彼らは執拗に食いしばって、光マイクロバブルの流動範囲をより広くしてもらいたいと願っていましたが、それはとても無理なことでした。
そのエビの養殖場は深さ1m前後であり、その広さは数平方キロメートルにまで及んでいましたので、ため池に注射器で一滴を注ぐようなものでした。
そこで、わずか一滴であっても、それをため池全体に広がっていくようにするには、どうすればよいのか、その解決法を考える必要がありました。
残念なことに、この陸上養殖水槽には、潮の満ち引きによる拡散機能はなく、頻繁に海水を入れ替えるようにはなっていませんでした。
しかし、餌を有効に食べさせるには、この狭い水槽の方がよく、その海水管理もしやすかったことから、その事業者は、密殖状態での育成法を果敢に選んだのでした。
先に、その水槽において立派に育っていたクルマエビの写真を示しておきましょう。
密殖状態の必要条件
ところで、この水槽の面積は600㎡、水深は約2mでしたので、その底質付近に光マイクロバブルを発生させ、その底質と周囲の低水の酸欠状態を招かないようにする必要がありました。
そのためには、底部すれすれにおいて光マイクロバブルを大量発生させて、その底質を浄化し、クルマエビが底部の砂に潜り込んで生息できるようにしなければなりませんでした。
同時に、この600㎡に均一に光マイクロバブルを行き渡らせることが重要でした。
すなわち、底部付近で大量発生させた光マイクロバブルを、そのまま上昇させて水面において弾けさせたのでは元も子もありませんでした。
直径10㎛の光マイクロバブルの上昇速度は、毎秒100㎛ですので、100秒で1㎝上昇します。
水深2mであれば、それが底から水表面までに上がる時間は、100秒×200、すなわち20000秒かかります。20000秒は、約5.5時間です。
しかし、この光マイクロバブルが5.5時間かかって水面に到達することはありません。
なぜなら、ほとんどの光マイクロバブルの寿命はせいぜい数十秒間しかなく、その大半は、海水中に溶解してしまいます。
それゆえ、大量に発生させた光マイクロバブルを水平方向に流動させながら、同時に、その光マイクロバブルを溶解させて、その海水を水槽全体に行き渡らせるという工夫が重要だったのです。
よいアイデアは、それをひらめき、考え出すことは難しいことなのですが、それが一旦解ってしまうと簡単に理解できるものです。
よいアイデアほど、それが解りやすいという特徴を有しています。
ここで気になることは、そのクルマエビの事業者が、その狭い水槽に何匹の稚エビを投入したかということです。
その数は、なんと15万匹だそうでした。
こういっても、15万匹が、どの程度の密殖状態になっていたのかは、よく解りませんよね。
これは、普通のエビ養殖業者であれば吃驚するほどの過密度であり、相当に常識からかけはなれた栽培方法だったのです。
おそらく、これで起死回生の成果を上げたかったのでしょう。
こちらも、その願望を叶えてあげたいと思うようになり、現地視察を繰り返すとともに、連絡を密にして対応していました。
その特注の光マイクロバブル発生装置2セットを配備してからは、そのクルマエビの生育は極めて順調でした。
冬場になって、その水槽にはテントが張られ、水温が下がりすぎないように配慮されていました。
その後、春を迎えて、クルマエビは目標の体長数㎝(3~5㎝以上)にまでなってきていました。
すなわち、この時点までにおいては、その10倍の密殖栽培が予想以上に成功していたのでした。
底面には少しのヘドロ形成もなく、昼間に砂に潜ったクルマエビたちを網ですくいあげようとしてもなかなか捕獲できませんでした。
もちろん、クルマエビの死骸は、ほとんど皆無の状態でした。
そして夜になると泳ぎ始め、餌をやるとそれに群がる様子がよく観察されていました。
これらの現象は、光マイクロバブルによる密殖栽培が上手くいっている証左でもありました。
次回においては、その後の事態について分け入ることにしましょう。
(つづく)
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