光マイクロバブル「ブレイクスルー」の背景
マイクロバブル(後に「光マイクロバブル」と呼称)化が実現されることによって、次のブレイクスルーが可能になるのではないかという推測が生まれるようになりました。
その第1は、飛躍的な数の増加に伴って、それらを総合すると、その表面積も飛躍的に増えて、その気体の溶解が大幅に促進されるのではないかという推測でした。
この推測は間違っていませんが、そこに抜け落ちていたことは、その絶対量の問題でした。
より具体的にいうと、たてば下水処理の分野でいうと、曝気(エアレーション)という用語がありますが、これは、空気を下水中にブクブクと吹き込んで、その泡で溶存酸素を高めようとします。
この場合、その泡は小さい方がよく溶け込みやすいので、可能な限りより小さな気泡を造ろうとします。
しかし、この微細化が容易ではなかったことは前記事において示しておきました。
この発想で、多くのみなさんが気泡の微細化を試み、それを成功させることができなかったのです。
その試みにおいては、とにかく気泡の微細化を実現し、その表面積を増やすという量的な追究のみがなされていたことに特徴がありました。
気泡を小さくすることができさえすれば、その表面積が増えるので、飛躍的に溶存酸素能力を高めることができる、といういわば単純な動機で、その微細化を図ろうとしていたのです。
この硬直的な見解は、次の問題へと拡大していきました。
①空気吸入量が少ない場合には、たしかに酸素溶解効率は高いといえるが、それでは、大容量の下水処理や化学反応には使えない。
②そうであれば、より酸化能力が高いオゾンではどうか?この指向によってしばらくの間、オゾンマイクロバブルを利用しての酸化殺菌の試みがちらほらありましたが、どうやらこれも上手く行かなかったようです。
その理由は、マイクロバブルの絶対量不足の問題を突破(ブレイクスルー)できなかったからでした。
③この指向は、この約10年間のナノバブルの問題にも結びついていきました。ナノバブルの発生個数が多いという前提で、酸素であれ、オゾンであれ、ナノバブル化さえすれば、そしてそれが非対象物内に、あるいは、その周辺にナノバブルがありさえすれば、そこで重要な何かが起こってくれるのではないかという、ある意味で単純な、そして願望に近い指向が生まれることになりました。
マイクロバブルの時と同様に、とにかくナノバブルがあれば、そこで願望した反応が起きて、「ナノバブルが何とかしてくれる」と考えておられたようです。
しかし、このような指向と願望は、それが実現されるのであれば、真に幸運なことなのですが、それが非科学性に富んでいれば、決して、自然の女神は微笑んでくれないのです。
あるとき学会の席上で、熱心にナノバブルの意義を提唱されていた研究者の方に、「あなたのいうナノバブルで、どんな化学反応が起こるのですか?」と尋ねたら、その方は何も答えることができませんでした。
そして、挙句の果てに、次のように居直りました。
「ナノバブルがあるだけでは、いけないのですか?」
「それでは、科学的な根拠にならないから尋ねているのです」、こういいたかったのですが、可哀そうになって、その再質問を行うことは控えましたが、同じことは、形を変えて繰り返されるものだとつくづく思いました。
なお、ナノバブルの諸問題については、再度詳しく検討したいと思いますので、ここでは、その「さわり」を指摘することに留めておきましょう。
光マイクロバブル「ブレイクスルー」の過程
光マイクロバブルの大量発生(毎分1リットル)が可能になったことで、新たな分野における適用問題が生まれることになりました。
その際に、上記の問題が鋭く問われることになりました。
それらをもう一度整理しておきましょう。
1)気泡そのものを小さくすることができなかったが、それが可能になった。しかし、その気泡発生量では、すなわち毎分1リットルでは、その絶対量において不足する事例があった。
2)トータルの表面積を増やすことができない。したがって、下水処理や化学反応など多くの溶存酸素量を必要する分野に適用するのは困難であった。
3)溶存酸素能力を高めることができない。光マイクロバブルを発生させる絶対量が圧倒的に不足していたために、その液体全体の溶存酸素を大幅に向上させることはできなかった。
これらの困難を最初に克服したのは、水産養殖の改善でした。
このきっかけは、ある業者が、私どもが開発した光マイクロバブル発生装置を海水において使用した「感想」が寄せられたことにありました。
その方は、海水中で光マイクロバブルが発生している様子を実際に見られて感激し、オゾン海水マイクロバブルを試したいといっておられました。
この時までは、海水中で光マイクロバブルを発生したことがなかったことから、その指摘は大いに参考になりましたので、その水槽実験を行いました。
たしかに、光マイクロバブルが発生している様子を見て、見事に白濁化することが解りました。あるとき、ある大手の洗濯機開発の担当課長さんが訪ねて来られましたので、その様子を披露したことがありました。
その方は大変驚かれたようで、その海水のなかに汚れた布を入れてきれいになるかを確かめてほしいといいだし、その場で洗浄実験を行いました。
その結果を踏まえ、その課長さんが要望されたのは、その光マイクロバブル発生装置を無償で借りたいということでした。
個人的に、そのまま借りたいというのですから、なんと虫の良いことかと思い、さすがに、その提案を受け入れることはしませんでしたが、天下の大企業の課長さんも、この程度のことかと思いました。
結局、この大手企業は、数々の失費と粉飾によって、その企業自体の存続が難しくなっています。
さて、海水光マイクロバブルは、上記の困難を、どのように解決したのか?
この問題に戻りましょう。
それは、簡単なことでした。
なぜなら、海水マイクロバブルにおいては、その発生量が約5倍に増やすことができたからでした。
これは、私どもの海水光マイクロバブルの研究に非常に役立つ朗報となりました。
そして、丁度そのころに、広島の江田島湾におけるカキ養殖改善という重要な研究に取り組むようになったのです。
すでに、何度か明らかにしてきましたが、この海水光マイクロバブルの研究が、その後の私の研究テーマと人生を大きく変えていったのですから、それは素敵な海水光マイクロバブルの女神との出会いだったということができるでしょう。
これが、第一のブレイクスルーでした。
次回は、その第二のブレイクスルーに分け入ることにしましょう。
(つづく)。
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