半沢直樹(5)

 この2週間、「半沢直樹」の感想を記していませんでした。

 まず、この番組の出だしがよいですね。通常の番組では、題目があって「この番組は次のスポンサーで送ります」といってからコマーシャルがある方式ですので、ノロマの出だしです。

 それがなく、いきなり冒頭の物語があり、そこで十分に暗示を与えてから、悠然とタイトルが写しだされます。

 視聴者の最初の印象付けを上手く利用した手法であり、これだと、その後に続くコマーシャルが気になりません。

 2つ目は、必ず主題が明確であり、その都度完結しながら、次に進むというドラマの展開がなされていることです。筋書きがきちんとされて発展していくことのおもしろさが盛り込まれています。

 今回は、かつての「日本航空」をモデルにして「帝国航空」の再建をテーマにしたもので、その再建責任者が東京中央銀行の半沢という設定でした。

 国は、帝国航空の債権放棄を各銀行に押し付けようとしていました。

 その最大の債権の貸付主が東京中央銀行であり、その額は500億円でした。この7割を放棄せよ、これが国の指示でした。

 半沢は、この無謀な指示に真正面から歯向かい、自主再建を行おうとします。

 綿密な調査を行なうことによって、帝国航空には、その力があり、スタッフも揃っていると判断していました。

 ここが、他のバンカーとの違いでした。

 東京中央銀行からの出向者や担当者は、帝国航空の不振をよいことに、自己利益のために不正を行い、その金融庁の審査の際には、ウソとごましを強要させていました。

 これらの事実を、半沢は、役員会の席上でみごとに暴き出します。

 「俺には、不正は通用しない」

と、ごまかしようのない証拠を探し出して見せつけるのですから、いくら強弁で知らぬふりを示しても逃れようがないのです。

 ここが、半沢の一番の魅力なのです。

 一連のコロナ危機の現象において政府の答弁や会見は、いかにゴマカシ、ウソを付き通していくかに悪知恵を絞るかのみで、しかもそれが次々にばれて明らかになっていきますので、みなへきへきしていますので、半沢の反撃がここちよいのです。

 3つめは、半沢がかなりの剣道の腕の持ち主であり、毎回、その稽古のシーンが登場してくることです。

 主演の堺の「剣さばき」は、長い間剣道の練習を重ねた者でしか示せない、確かなものでした。

 この鮮やかな剣さばきが、半沢の「倍返し」と二重写しとなってみごとに演出されています。

 幼いころから剣道を練習してきた私にとって、それは小さくない魅力になっています。

 鋭い剣さばきが、みごとな「金さばき」に結びついて「ここちよい」のです。

『沈まぬ太陽』

 半沢の物語においての航空会社は「帝国航空」と呼ばれていましたが、かつて山崎豊子による『沈まぬ太陽』においては「国民航空」と呼ばれていました。

 この国民航空では、数々の不正が蔓延り、負債が大きく膨れ上がっていました。また、機体の安全性が確保できないと指摘した労働組合の幹部には、さまざまな不当人事が横行していました。

 とくに、国民航空の「生協」における不正が明らかにされ、それが第二組合の幹部の腐敗の温床になっていました。

 半沢に匹敵する主人公は「恩地」であり、かれの不正を許さない揺るがぬ精神と組合に依拠した行動が、国民航空の闇を暴いていきます。

 それを支援したのが、国民航空の会長であり、会長・恩地連合と不正連合との闘いが、どこまでもリアルに描かれていきます。

 半沢の場合は、かれのよき理解者が、北大路欣也扮する頭取です。

 半沢は、常に銀行全体の利益のために考え、行動しますので、その思考と実践が、自ずと頭取と同一になっていきます。

 ここに半沢が活躍できる客観的根拠と舞台が存在しているのではないかと思います。

 これから、『沈まぬ太陽』で描かれた政治的介入とよく似た行為が、半沢においても登場してくるようで、さらに複雑でおもしろい展開になっていきそうですね。

 さて、コロナショックのなかで、なぜ半沢直樹が人気なのか、そのことをよく考えてみましょう。

 半沢を敵視する連中は、決まって同じ銀行の上司であり、関連会社の役員たちです。

 これらのほとんどは、上役としての利権と自分の欲得でしか動かない者ばかりであり、これまでに強力な権利と力を気付くことで、それこそ思いのままに社員たちをこき使ってきました。

 それに誰も歯向かうものはいませんでしたので、思い通りの利権を容易に手に入れることができたのです。

 ところが、今回のコロナ危機は、それが強大で歯向かうことができないものではなく、じつは非常に脆弱であり、金や利権を供しても、まったくそれに従わない、見向きもしないのがコロナだったのです。

 しかも、この利権と欲得でしかない人間が、長い間巣くったままでいると、それ以外においては、ほとんど頭が働くなるようになってしまうのです。

 鋭く大きな直観ではなく、「鈍くて弱小の思い付き」しか頭の中に湧いてこず、ますます不正や陥れに靡いてしまうのです。

 その典型的事例が、「アベノマスク」であり、「Go TO なにがし」などではないでしょうか。

 この利権と欲得を半沢が痛快に暴き、倍返しをひるむことなく実行する、ここに興味がそそられているのではないでしょうか。

 コロナで「へたり込み」と「あきらめ」がますます蔓延るようになり、人々の精神を萎えさせるようになっています。

 半沢よ、世の中に溢れ始めた「へたり込み」と「あきらめ」を吹き飛ばせ!

 次回は、半沢倍返しの源泉である「情熱」についてより深く分け入ることにしましょう。

 (つづく)

takasago-56

高砂百合の輝き