先日、S先生(清水正嗣)の遺された本をいただくことになりました。

 そのために、玄関に山積みされた本の選別を3日間にわたってじっくり行いました。

 貴重な本ばかりで、それらによって先生の教養の一端を偲ぶことができました。

 先生のご専門は、口腔医学でしたので、その専門書のうちの貴重な図鑑風の解説書をいあただきました。

 また、語学が堪能で4か国語を話されていましたので、それらの辞書もありました。

 さらには、幅広い教養書にも素敵な本があり、とくに食べ物や随筆集にも興味をそそられました。

 これらの書物を一冊、一冊、ぱらぱらと捲りながら、先生との思い出を思い浮かべました。

 そのなかで、これはよい本だと思うものには、必ずといってよいほどある親しい方への献本の署名がありました。

 おそらく、その大半は、その献本を済ませていたはずで、ここに残っていたのは、その献本をしようと思って手元に留まっていた分でした。

 「よい本だから、読んでみてください」という先生のやさしい思いやりが、この署名に現れていました。

 先生とは、私がK整形外科病院に入院しているときに知り合いました。

 先生の知り合いで同病院の理事長をなされていたK先生の紹介で、オペラ好きの方という付言がありました。

 当時、S先生は、同病院の名誉院長をなさっておられました。

 そこで、このS先生に家内のCDを差し上げたところ、早速聴かれたのでしょうか。

 すぐその後に、私の病室を訪ねて来られました。

 ドアを開けて先生を迎えると、先生は大粒の涙を流されて泣かれていました。

 すぐに室内に入っていただき事情を聴くと、亡くなられた奥様がオペラ歌手でしたので彼女のことを思い出されたのだそうでした。

 この純粋透明な涙がきっかけとなり、S先生が、たびたび私の病室を訪ねて来られるようになり、互いに心を開いての会話がここちよく弾むようになりました。

 医学や音楽のこと、外国紀行、食べ物の話、さらには光マイクロバブルのことなどを話しこむようになり、互いの親交を深めることができました。

 私の退院後まもなく、K病院との共同研究が始まり、その実験場がKクリニックでしたので、ここでS先生と再会しました。

 先生は、同じフロアにおいて患者さんの相談役をなさっておられましたので、実験の合間に、このデスクを訪ね、さまざまな話を重ねることになりました。

 このころは、私ども(株)ナノプラネット研究所とK整形外科病院との共同研究が、国の大型補助金の支援を受けて開始された時でもあり、この研究の内容や評価についてもよく議論を行いました。

 これによって先生は、光マイクロバブルに関するよき理解者になり、光マイクロバブル試験の被験者にもよくなっていただきました。

 こうして、互いに胸の内までさらけ出して話せる中になったことで、先生は、私を生涯の友のように思ってくださったようでした。

 人生とはふしぎなもので、その「きっかけ」は、私の長期入院、家内のCD、そして共同研究などにありました。

 これらのことを思い出しながら、先生の遺品としての本を一冊ずつ開きながら選別を行っていきました。

 そのなかに清川妙さん著の『兼好さんの遺言』がありました。

 「遺言」とは、生前に残した言葉ではなく、「教えてくれた言葉」だそうです。

 この著者の本を何冊か読んでいて関心がありましたので、これを真っ先に読んでみることにしました。

 次回は、その内容に触れながら、先生を深く偲ぶことにしましょう(つづく)。
 
rabe5
ラベンダー