マイクロスコープを用いて、マイクロバブルを可視化するデモ実験が始まりました。

 水槽でマイクロバブルを発生させ、マイクロスコープのレンズを、その透明アクリルの水槽の壁に接近させて、その付近のマイクロバブルを撮影しようとしました。

 しかし、マイクロバブルは常に3次元方向に流動していますので、そのマイクロスコープのレンズではクリアにマイクロバブルを撮影することができませんでした。

 かなりの時間にわたって試みても、それが可能にならないので、その若い業者は、次のような結論めいたことを私に言い始めました。

 「このようにマイクロバブルを明瞭に可視化することはできませんので、これを販売することはできません」

 「ちょっと待ってくださいよ。それはあなたの判断でしょう。その買うかどうかの判断は私がすることではありませんか?」

 「そうはいっても、可視化できないものを販売するわけにはいきません」

 「それは、あなたの判断でしょう。それが私の判断と違っていたらどうしますか?」

 こういうと、かれは、きょとんとした表情を浮かべて、ふしぎな顔をしていました。

 「たしかに、あなたが今、可視化しようとして、その撮影はできなかった。そのことは、私も見ていましたので、その通りです。

 しかし、私は、あなたの失敗する姿を見て、これは逆に、撮影できると思いました。

 もちろん、私が頭の中で描いているのは、その撮影方法とは違う方法ですよ」

 こういうと、ますます、かれはふしぎな顔をしていました。

 「あなたの失敗している姿を観ていて、あるアイデアをひらめきました。とにかく、私は、このマイクロスコープを買うことにしましたので、その対応で、よろしくお願いいたします」

 こういっても、かれは、まだ割り切れない様子でした。

ーーー かれを最終的に納得させるには、こうしたらできましたよという方法を実際に示すしかないな。

 こうして、マイクロバブルを可視化することが可能なマイクロスコープという強力な武器を配備することができました。

 こんな事情でしたので、その当時は、だれもマイクロバブルを可視化できる、あるいはしようとする人は皆無に近かったのではないかと思います。

 もし私が、そのように業者とは逆の方法を開発しなかったら、あるいは、業者のいう通りにしていたのなら、マイクロバブルの可視化は実現できていませんでした。

 おそらく、相当に遅れてどなたかが可視化を試みることになったことでしょうが、それにしても、その方法は容易でなく、そのためにマイクロバブルの科学的研究の進展は、なかなか図れなかったのではないかと思います。

 まずは、可視化して、自分の目で観察できるようにする、これが可能であれば、科学的研究の第1ステップということができます。


 それでは、実際にマイクロバブルを可視化した結果を示すことにしましょう。

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                   マイクロバブルの可視化と収縮の様子 

 この図には、可視化されたマイクロバブルが時間経過とともに収縮しながら変化していく様子が示されています。

 赤い丸印で囲まれた中の黒い斑点上のものがマイクロバブルです。この場合、マイクロバブルを撮影する際に、レンズと反対側からマイクロバブルを撮影していますので、黒い影としてマイクロバブルが可視化されています。

 左上の0秒のときの写真をご覧ください。

 そのマイクロバブルの右側に、スケールが映し出されています。

 これは、マイクロバブルを撮影する際に、奥の方の壁に埋め込まれたもので、その最小目盛りは10㎛です。

 この目盛りに照らし合わせてみますと、そのマイクロバブルのサイズがおよそ20~30㎛であることを判別することができます。

 ここを観察の起点として、時間経過とともにマイクロバブルのサイズは徐々に小さくなって、最後の19秒の時には、マイクロバブルのサイズが10マイクロメートル以下になっていることが明らかです。

 このように時間経過とともにマイクロバブルが小さくなっていくことを「収縮現象」と呼ぶことにしました。

 これらの写真を見れば、マイクロバブルが収縮することは、だれの目によっても明らかになことです。

 しかし、この収縮する現象を学会において初めて発表したときには、だれも唖然としていて、収縮する泡があるなって信じがたいという顔をなされていました。

 この収縮するマイクロバブルは、当時の学会においても非常識の現象だったのでした。

 さて、もう一度、上図における各写真を眺めてみてください。

 各写真におけるマイクロバブルは、かなり鮮明に写し出されています。

 じつは、この鮮明画像の可視化に苦労し、相当に悩んだ末にひらめいた秘策のテクニックがあって、それでこのような可視化に成功したのでした。

 その秘策とは何か、次回は、それを紹介することにしましょう
(つづく)。