X先生を交えての検討会は、10時30分ごろから始まりました。

目の前には、キーエンスから特別に借り出した最新のマイクロスコープがあり、これが威力を発揮しそうでした。

最初は、「古備前」の特徴さがしを行うことになりました。

X先生によれば、窯の幅は5、6m、長さは40m以上の巨大窯で焼かれていたそうで、その破片を丹念に調査することになりました。

この古備前の特徴は、これまで、よくいわれてきた次の「備前の七不思議」に集約されます。

1.投げても割れぬ、備前すり鉢

2.冷たいビール、温かいお茶

3.きめ細かな泡で、うまいビール

4.長時間おくと、うまい酒に

5.新鮮でうまい料理を食せる

6.花瓶の花が長もち

7.使うことで、落ち着いた肌ざわり

そこで、この七不思議について、やや分け入って解説を試みることにしましょう。

1.については、釉薬を用いずに、直接焼き固めるために、強度が強いからと説明されています。

たしかに、投げても割れないほどの強度を有しているようですが、「釉薬を用いずに直接焼き固めるから」ということのみでは、その投げても割れぬことを、十分には説明できていないように思われます。

なぜなら、釉薬を用いずに、すなわち素焼きの状態で焼き固めても、強度の出ない焼き物ができあがることもあります。

たとえば、煉瓦は、その典型であり、備前焼と同じ温度で焼いても、すぐに割れてしまい、低い強度しか示しません。

それでは、何が備前焼を硬くしているのでしょうか。

それは、備前焼きに用いる土の粒子の小ささと粘着性に起因しています。

周知のように、土の粒子が細かいほど、粒子同士の隙間がなくなります。粒子と粒子がくっ付きあっている状態で焼かれると、土のなかに含まれる溶融成分が出てきて、互いに粒子を接合してしまうのです。

ですから、備前焼の表面を微視的に拡大してみますと、結晶化された粒子とそれを取り囲む非結晶物質(溶融物質で、アモルファスと呼ばれている)で構成されていることが明らかになります。

もちろん、その表面は水を容易に沁みこませることがないようにしますので、びっしりと土の粒子を詰め込んで焼き固めるようにしています。

備前焼の強度は、土の粒子を細かくし(直径において数マイクロメートルから数百ナノメートルにまで微細化)、隙間が形成されないようにしているから、大きく保たれているのです。

そこで、今度は、その隙間形成が問題になります。

X先生の言葉を借りれば、「鬆(す)があるかどうか」が問題になります。次回は、そのことについて考察することにしましょう(つづく)。
巨大窯遠景
X先生宅の庭に植えられた桃の木、その向こうには3mの長さの薪と巨大窯の屋根の一部が見えている。