奇しくも、この大船渡湾におけるカキ養殖改善実験においては、マイクロバブルを用いて、そのカキの産卵及び放卵制御が可能かが、いきなり問われることになりました。

私どもは、この制御が可能かどうかで、この実験の成否の一つが決まると思っていましたので、これを1週間ごとに現地で観察するという過密スケジュールを組むことにしました。

山口からは、一日がかりで大船渡まで行き、中一日を集中的に観測日にし、さらに、最後の一日で帰ってくるという日程でした。

しかも、中日においては、潮の干満問題があり、午後2時からは、その観測実験ができなくなるという問題もありました。

地震で、船を横付けする堤防が約1m以上も沈んでいたので、そこが水没してしまい、機械の運び出しや乗り降りが不便になってしまうからでした。

その意味で、その中日には、それこそ時間との闘いで観測したことを思い出します。

さて、この1週間ごとの現地観測によって、産卵状態にあった卵か身入りし、固まっていく様子を詳しく観察することができました。

この過程を、それこそ、注目しながらカキを採取しては、その断面を海水に浸けて、その卵の拡散具合を確かめ、それが、1週間ごとに減少し、最後には、ほとんどなくなったことを確かめました。

いよいよ、こうして大船渡湾では初の、そして広島湾に次ぐ2番目の放卵抑制という産卵制御を実現させたのでした。

おそらく、マイクロバブルがカキの成長を促すことで、放卵よりも身入りに方に向かわせたこと、前回の温度計測分布からも、明らかなように、下層のより水温が低い水塊をマイクロバブルとともに上昇させたことの2つが、それに寄与したのではないかと思われます。

なお、広島湾においては、後者の理由を強調していたが、むしろ、前者の方が、より重要な役割を果たしたのではないかと思われます。

しかし、この事実は、現場で協力していただいたカキ漁師の方には、最後まで信用していただけない問題でした。

長年、カキ漁を行ってきた経験から、それをにわかに受け入れることには、何がしかの抵抗があったのだと思います。

一方、この無放卵カキの誕生は、かつてカキの仲買をしていた方々には、非常に好意的にというか、諸手を挙げての賛同を得ることができました。

なぜなら、カキの販売が開始される10月、11月においては、まだ身入りがすすまず、そのほとんどが痩せたカキですので、それを何とか改善する方法はないかと待望していたからでした。

すなわち、放卵による痩せを回避し、身入りを促進させたカキの誕生を欲していたのです。また、彼らは、そのカキを「バージンオイスター」という名前まで付けて待ち望んでしたのでした。

「そのバージンオイスターができましたよ!」

「本当ですか? ぜひ、それを見せてください!」

「いいですよ、そのバージンオイスターを、ご自分の目で確かめてください」

この確認を行っていただいた、2011年9月9日の観察結果の一例を示します。この写真は、初公開のものです。
201109009


これより、カキがマイクロバブルで見事に大きく育っていることが明らかです。殻長は約8㎝を超えています。

また、無放卵のために、卵が身入りして、ふっくらしています。また、カキ漁師がいう、縦に白い筋状のものが、そのふっくらした部分に形成され始めています。

貝柱も大きく、黒い鰓(えら)も鮮明です。このカキの腹を切り裂いて、産卵したものが、どうなったかも丹念に調べました。

その結果、固まっていない卵が流れ出ることは少しもありませんでした。まさに、バージンオイスターとして成長し始めた姿がここに観察できていたのでした(この稿続く)。