NHKの朝ドラ、「ゲゲゲの女房」を楽しく拝見しています。「ゲゲゲ」は,主人公が幼きころに,「ゲゲ」と呼ばれていたことを文字って,付けられたそうです.
苦節20年余、主人公の水木しげるは,艱難辛苦を乗り越えて、出版社の賞をいただいき、日の当たる場所に躍り出たところですから、今が一番興味をそそられる時かと思われます。
水木しげるは,とても立派な漫画家です.その自己形成は,戦争時代の体験に遡ります.子供のころからガキ大将であった彼は,軍隊において,上司の命令に従わないことを貫き通します.
そのために,不服従の度に,上官から殴られます.しかし,その上官たちがいくら水木を殴っても服従しないので,殴るのも疲れてしまうといって,彼を殴ることをあきらめてしまいます.
また彼には,現地のみなさんと親しくなるという特技があり,軍隊に隠れて親交を深めます.その時に,彼の特技である絵を描くことが役立ったようです.
しかし,行軍の最中,マラリアに侵され,不幸にも左腕を無くしてしまいます.
幸いにも,この病気で苦しんで死にそうになっていたときに,現地の少年が軍隊に隠れてバナナを持ってきて,それを食べて命を失うことを逃れることができました.
戦争が終わった時は,そのまま現地に住みついてもよかったそうですが,それを諦めて日本に帰ってきます.
その後,いくつかの仕事を探したそうですが,それもうまくいかず,好きな絵を活かして漫画家になろうとします.この物語は,売れない漫画家のころから始まりました.
当時は,貸本屋が盛んで,その貸本の漫画原稿を書き始めます.このころが,私の少年時代と重なります.
当時の我が家には風呂がなく,大衆浴場に通うのが私の日課の一つでした.その帰りに貸本屋によって貸本を読む,それが私の楽しみでした.
時々は,借りて帰ることも許可してもらったので,その貸本を小脇に抱えてわくわくしながら帰りました.
その帰りの道すがら,母よりは早く走って行き,先にあった街灯の下で,母が来るのを待ちながら,その貸本を読む,これが最高のわくわく時間でした.
自宅に着いてからは残りをさっと読み,次に返すまでは何度も読み返す,このパターンでした.しかし,この時には,水木しげるの貸本漫画を読んだ記憶があまりありません.
おそらく,書いても売れない,苦労に苦労を重ね,水木家には「貧乏神」が宿っていたころであり,少年の私が目に留めることはなかったようです.
こうして売れない漫画家水木は,奥さんとともに「赤貧」の生活を送ります.いくら書いても安い原稿料しかもらえなかったので漫画家を辞めようかとさえ思うこともありました.
朝ドラでは,この若き水木が,奥さんとともに,赤貧に抗して,苦労しながらもたくましく生き抜いていく姿が丁寧に描かれています.そして,みんなが苦労しながらも助け合うという戦後の日本復興の様子も明らかにされています.
この様子が私の幼きころと深く重なりますので,主人公の生きざまが,その彼によって描かれた「漫画」を通して鮮やかに再現されてしまうのです.
そうか,私の少年時代の漫画事情はこうだったのかという思いと,その記憶が交差しながら蘇ってくることがとても「ここちよい」と感じてしまうのであり,そのように思われる同世代の方々も少なくないのではないでしょうか(つづく).
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