幼いころの我が家にはテレビがなく、もっぱらラジオが主役でした。NHK紅白歌合戦もラジオで聞いた記憶があります。

 父親が好きだったからでしょうか、もう一つよく聞いていたのが、廣澤虎造の浪曲でした。そのうち、この浪曲が好きになり、「旅行けば、駿河の国の茶の香り・・・・・・・」と、名調子を聞くと、思わず耳を傾けるまでになりました。

 なかでも、清水次郎長伝「森の石松の金毘羅参り」は、虎造の十八番、何度聞いても聞き惚れていたことを思い出します。

 例の「飲みねー、飲みねー、鮨食いねー!」と語られる名調子が有名な浪曲です。

 これとよく似た話が女性のMさんから届けられました。

 Mさんは、ご友人と9月5日の昼過ぎに広島県宮島に参拝されました。以下、その「宮島参り」の様子を紹介させていただきましょう。

 今から2年前、Mさんは、今回と同じ友人と宮島参りをなされました。

 無事、参拝を終え、友人の彼女の勧めで、宮島神宮の山手にある静かな裏通りに案内されました。

 その目的地は、小さな通りの角にある「もみじ饅頭店」の「いわむらもみじ屋」でした。

  さて、時は今から2年前にさかのぼります。

 やはり同じ友人と宮島参りを済ませたときでした。

 「おいしいもみじ饅頭屋さんがあのだけど、行ってみる?」

 もちろん、Mさんは、その誘いに賛同して、その店を訪ねることになりました。

 宮島宮の裏手は、すぐ山になっています。その山と宮島宮の間に、細い道がありました。参拝者の多くは、別の海岸通りやメインの商店街の通りを進みますので、ここは、裏通りといったところでした。

 しばらく歩いて、その道の角に小さな饅頭屋がありました。それが、「いわむらもみじ屋」でした。

 その店頭で友人に勧められるままに「もみじ饅頭」をいただきました。これがとても美味しく、心に残る味となりました。

 しかし、その時は、これがなぜおいしいのか、そのことを考えることもなく、その美味しい饅頭を買って帰っただけでした。

 もちろん、その饅頭がマイクロバブル技術を利用した饅頭であったことはまったく知りませんでした。

 「今日も、あの美味しかったもみじ饅頭屋さんに行こうか?」

 こう尋ねられ、Mさんは無条件に賛同していました。しかし、今度は、その友達との関係において、何かが違っていました。

 「二年前に、あの美味しいもみじ饅頭を食べたけど、あれがなぜ美味しかったかわかる?」

 意外な質問に、今度は友人の方が驚きました。

 「えっ!そんなことがわかるの?教えて!」

 「あわてないで、いわむらさんのところにいけばすぐにわかりますよ!」

 「いわむらさん? あなた、あの店の方を知っているの?」

 「いやー、そんなわけではないですよ!」

 「だったら、どういうことなによ!」

 「そうね!」

 このやりとりをつづけていると、すぐ目の前に店の空色の旗が見えてきました。

 「あそかが、いわむらもみじ屋ね。やはり、お客さんが来ているね」

 「それは、そうですよ。ここの饅頭が一番美味しいといわれているんですもの」

 店に近づくと、饅頭焼の機械音が聞こえてきました。1日1万個以上も「焼き上げる」という働き者です。

 店頭にある長手のイスに腰掛けて、ゆっくり店内を見渡しました。すると、奥さまが、すかさず、お茶を持ってきました。

 「評判のもみじ饅頭が食べたくてやってきました」

 こういわれると、お茶を差し出す奥さまの表情が、さらに崩れました。

 Mさんは、「この時だ」と思って、次のように尋ねました。

 「あのー、もしかして、マイクロバブルを使っている饅頭屋さんですか?」

 「はい、そうです」

 こういうと、奥さまは、すぐに熱々のもみじ饅頭をすぐに盆に入れて持ってきました。

 「こちらが『こし餡』、これが『つぶ餡』です」

 Mさんと友人は、どちらがどっちを食べるかで一瞬迷われていました。これには好みの問題があり、どちらが美味しいかについては、いろいろと意見が分かれています。

 焼きたての熱々は「ツブ餡」、冷えると「こし餡」がよい、このパターンがやや多いようですが、どうやらMさんは、熱々「こし餡」の方を選ばれたようでした。

 「おいしい、この味はすごいね!」(つづく)

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