田所博士が指摘した2つ目の資質が「イマジネーション(想像)」です。辞書によれば、想像とは、「現実には存在しない事柄を心の中に思い描くこと」とされています。

この場合、日本沈没は、どのようにして起こるのか?、そして、それが起こることで、どの程度の災害がもたらされるのか、これを思い描くことだったのではないかと思われます。

太平洋の小笠原沖にあった小さな小島が一晩で200mも沈んだことがありました。この小島を田所博士らは現地観測をし、その事実を知って驚きます。

同時に、水深7000mの日本海溝の観測も行い、そこに乱泥流という速い潮の流れが形成されている現象に出会い、驚愕します。

地磁気が変動し、水温も変化するデータを得ます。

「これらは、いったい何が起こっていることを示しているのか」、このことを想像しながら、田所博士は、「わからん」、「わからん」という言葉を連発します。

「わからん、わからん」といいながら、想像力を発揮させていました。

上記のデータは、日本沈没という巨大な現象においては、ほんの些細な、そして表面的な一部に留まるものであり、それをジグソーパズルに例えるならば、ぽつん、ぽつんととびとびでパズルが置かれている状態にすぎなかったのです。

ですから、そのパズルの状態では、それらの間に、どのようなパズルがあるかを思い浮かべ、そして、そのパズルの全体像を想像するしかなかったのです。

しかし、この想像においては、何を思い浮かべるかがきわめて重要になります。ある学者は、巨大地震が起こると思うかもしれません。しかし、もう一人の学者は、そんなことは大したことではないと笑い飛ばすかもしれません。

そして、多くの学者は、「よくわからない」、「わからないことだから、とやかくいえない」と思うはずです。

このとき、何を想像するかにおいて、決定的に重要なことが、「大きな直観」といえるのではないでしょうか。

これまで多くの人々が、世界地図をみてきましたが、アメリカとアフリカがくっついていたとは思わなかったのであり、彼は、それこそ世界地図を破って、何度も、アメリカとアフリカをくっつけてみたにちがいありません。

「もしかして」と思い、地図を寄せ合い、そして、「やはりそうか!」と考え、今度は、その地図を遠くから眺め考えるという行為を続けたのだと思います。

さらに、かれは、4つの大陸がくっついていたならば、その移動する大陸の上で、動植物や自然がどのように変化していったかについても想像力を豊かにして思いを馳せたにちがいありません。

今では、その大西洋が1年で4cm、アメリカ側とアフリカ側の両方において約2cm広がっていることが正確に計測されています。

こうして、地殻という「個体」が流れていることが証明されてきたのです。

田所博士の場合は、ご自分の目で実際に観察された現象、一晩で200mも沈んだという島の観測、それらに伴って計測された各種データを理解し、それらを総合して、

「もしかして、これらは、日本沈没というとてつもない現象が起こることを示しているのではないか」

という直観を得たのではないかと思います。

さらに、その得られた結論を踏まえ、その原因をより明確に解明するには何をすればよいのか、何が必要なのか、また、それが起こることは何を意味し、どのような被害をもたらすかを想像していったのだと思います(つづく)。

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