マンデラ大統領の「ひらめき」の第一は、ナショナルラグビーチームであるスプリング・ボッカスの主将、フランソア・ピナールをお茶に招待し、持てる力を最大限に発揮するためにどうしたらよいかを考えていただくことでした。

その第二は、ラグビー協会会長への直接の「依頼」でした。それは、スプリングボッカスの選手が、貧民街の子供たちを訪問し、ラグビーを教えることでした。

もちろん、子供たちは大喜びであり、とくに、唯一の黒人選手であったチェスタは大歓迎を受けました。

彼を中心にして、子供たちにラグビーを教えることで、選手たちは、すぐに子供たちのなかに溶け込み、交流を終えて帰るころには、全員が親しくなっていました。

こうして子供たちは、すぐにスプリング・ボッカスの選手たちの大ファンになっていきました。

実際に、ボッカスのユニフォームを着ているといじめられていた子供たちが、反対に彼らの支援者へと変身していったのですから、この大統領のひらめきは大成功を修めることになりました。

同時に、選手たちも、この大歓迎を受け、ナショナルチームとしての自覚を深めていくことになりました。

今年は、サッカーのワールドカップがありましたが、これは、たとえば、日本の代表チームが全員で子供たちのために出かけることに相当します。

代表チームとして練習をしているところがメディアに報じられていました。

そこでは、試合に勝つための準備がなされているのですが、少し余裕を持って、練習だけでなく、子供たちも含めて多くの方々のところに出かけることができるようになると非常によいなと思いました。

その意味で、マンデラ大統領のひらめきと依頼は特別なものでした。

日本であれば、内閣総理大臣が、直接サッカー協会のチェアマンに依頼するようなことですから、それがいかにあり得ないことか、みなさんも容易に理解できることではないでしょうか。

スプリング・ボッカスの「持てる力」を最大限に発揮できるようにする、これに関しての第二の「ひらめき」は抜群のものでした。

そして、大統領の第三の「ひらめき」が、予選の試合の前日に発せられました。

それは、大統領専用のヘリコプターで、選手たちが練習していたグランドに直接降りていくことになされました。

もちろん、事前に大統領は選手全員の顔と名前を覚える練習をしたいましたので、個々に名前をいわれながら、激励された選手たちは、その感激を隠すことができませんでした。

そのとき、大統領は、ピナールに「ひらめき」の源泉であった「手書きの詩」を渡します。そして選手たちからは、ボッカスの一員の印であるグリーンの帽子が大統領に手渡されます。

これで、大統領と選手たちの精神的交流がさらに深まったのでした。

そして翌日のスプリング・ボッカスは、難敵オーストラリアチームを撃破し、幸先よいスタートを切ることになりました(つづく)。

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