ボッシュは、いくら考えてもよい考えが浮かばず、途方に暮れていました。
中心人物のボッシュがそうですから、ほかの社員も同じで、その状況をブレイクスルーするようなアイデアを生み出すことはできませんでした。
あるとき、ボッシュは、考えながら街の中を歩き続けて疲れ、公園の芝生の上に座ってボーっとしていました。
そのとき、ボッシュの頭の中に、次のアイデアが浮かんできました。
問題は、圧力窯の内部を高温高圧にして窒素と水素を化学合成するときに、その内壁の鉄と水素が反応して、金属が劣化することでした。
また、その圧力窯の内部の圧力を思うように制御することができないことでした。
この2つの大問題を解決することが必要であり、それに悩んでいたのでした。
ボッシュが閃いたアイデアの最初の解決法は、内壁の鉄が水素と反応して弱くなることは避けられない現象であり、それを素直に受け入れることでした。
「鉄と水素の間に起こることは、アンモニアを合成するには不可欠の反応であり、それを克服する強固な鉄を見出すことは困難である。
そこで、内壁とは別に、もう一つの金属板を入れ、それで水素との反応を促進させ、内壁への水素の影響をより弱めさせるという二重構造にする」
この二重の構造化によって、内壁の劣化は極端に減じられることになりました。
そして、第二の課題についても、コインサイズの穴を多数あけることによって、水素反応によって圧力が急上昇しても、その穴から内部気体が噴き出してくるので、それを制御することができるようになりました。
こうして、ボッシュの巨大なアンモニア合成タンクが完成することになりました。
しかし、この装置を完成させた工場はフランス国境に近いところにあり、戦争を始めても、すぐにフランス軍の標的になる可能性があり、これも防ぐ必要がありました。
そこで、ボッシュは、さらに巨大な装置をドイツの奥深い内陸部に製造する必要があることを、時のドイツ政府に強く訴えます。
この巨大なロイナ工場を完成させることがボッシュの野望であり、切なる願望でもありました(つづく)。
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