11時過ぎに新神戸に到着、神戸のHさんと約1年ぶりに再会しました。かれは、元気そうで、とても素敵な車で迎えてくださいました。

彼の紹介で、神戸港の近くのしゃれた喫茶店へ向かいました。途中、約1年間に積もった話がどんどん出てきて話が弾みました。

なかでも、神戸の美味しい水の話が出てきて、この水談義の花が咲きました。

まず、アサヒビールが、つい最近「六甲の水」という商標権を買い取ったことを知らされました。

やはり神戸にはすばらしい水があり、ここから食べ物や生活が成り立っている、これが彼の主張でした。

そういえば、灘の酒が生まれ、美味しい神戸の洋菓子やケーキ、さらにはパンが生まれた土地です。

しかも外国に通じた港があり、異文化を積極的に受け入れてきた街でもあります。その根幹のひとつに美味しい水があるとのことでした。

そこで、どんな水なのか、私も、非常に関心を持っていますので、ここから、話が展開していきました。

「そのおいしい水は、どこにあるのですか?」

「六甲山系から流れてくる地下水ですよ」

「六甲とは、あのペットボトルで売られている『六甲の水』の六甲のことですね」

「そうです。『六甲おろし』の六甲ですよ。最近のアサヒビールは、ビールよりも水の方で売り上げを伸ばしているそうですよ。みなさんがよい水を求めてペットボトルの水を買うようになった。この傾向がますます強まっているようです」

「仰るとおりですね。ですから、どのペットボトル水会社も工夫を凝らして水の販売に力を入れ凌ぎ合っている状況が生まれています」

「そうですね。おいしい水をめぐっての知恵比べや争奪戦が繰り広げられています」

「その通りです。ペットボトルの水も、よく調べ、よく比較をしてみますと、これが微妙に違うことがわかります。それから、敏感になってきますと、その中に微量に含まれている有機物の生臭さといいますか、その微妙な味の差が気になってきますね」

「私は、いつも家の近くにある『布引の水』を買っています。先生にも、この水を飲んでいただくのがよいと思いますが、いかがですか」

「もちろん、願ったりのことですよ。その布引の水とやらを飲ませていただけますとありがたいですね」

「これがなかなかおいしいのですよ。なにせ、船乗りたちが赤道近くまで持っていっても味が変わらなかったというほどの水ですから・・・・」

「それには、ちゃんとした理由があるはずです。一般には、水が悪くなるということは、そのなかに微生物が増えることを意味しています。

ですから、赤道近くまでもっていっても悪くならないということは、その水のなかに微生物を繁殖させることを制御する機能があるのだと思います」

こういわれ、Hさんは、「なるほど、専門家のいうことは違う」というふうな顔を示されていました。

「食べ物は、その料理も含めて、大きな影響を与えるのが水です。ですから、よい水があるところの農作物や料理がおいしいのです」

「そういわれればそうですね。父と家族で神戸中を食べ歩き、おいしいところをいくつも見つけましたが、そこには水が関係していたのですね。そばなんかもそうですか?」

「そばについては、それこそ通が東京にいます。なにからなにまでマイクロバブルで造った水でそばづくりをなされています。そば粉を練る時の水、それからゆでる時、そして冷やす時も、その水を使ってつくると、それはそれは見事な味になるそうです」

「やはりそうですか」

「そば粉に水をかける時には、粉の中に水が浸透する具合が非常に重要だと思います」

「それはどういうことですか?」

「粉の組織の中に十分入るか、それとも組織の外に水があるかで、そばの味が違ってくるからだと思います。組織の中に入り込みますと、そばに弾力性が出てきます。これは微妙な表現ですが、弾力性があってなおかつ柔らかいという性質が生まれてくるなおだと思います」

「なるほど、水が外にある場合はどうなるのですか?」

「当然、そばに柔らかさと弾力が生まれません。水が多い場合には、びしょびしょ感が生まれてきます」

「それから、ゆでる時はどうなるのですか?」

「そばの中に水が入って柔らかくなっていますので、ゆでる時間をいつもよりは短縮する必要があります。つまりゆで過ぎないように注意をする必要があります。通常は、数秒間の短縮を行う方がよいと思います」

「なるほど、奥が深くて微妙ですね。冷やす時は、どうなるのですか」

「これも重要なプロセスといえます。ゆでたそばめんは熱いので、それを冷水で冷やします。

このとき、冷水が熱いそばに中に入りやすくなりますので、冷水に水道水を用いますと、その水の中の有機物や塩素が入ってしまい、いわゆるいやな感じの味が生まれてしまうのです。この過程で、せっかくのそばに味が落ちてしまうのです」

「おもしろい話ですね。ですから、そばづくりの名人たちは水にこだわるのですね」

「そうです。そばの命は水で決まる、このようにいってもよいと思います。そのそばづくりに凝っておられるカメラマンのKさんによれば、それはそれはおいしいそばになるそうですよ」(つづく)

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