5連休の初日が始まりました.これだけ時間があると,なにか宝物をいただいたよ

うな気分になりますね.読者のみなさまにおかれましても,さぞかし,有益な過ごさ

れ方をしておられると思います.

 その私は,二つの学会の仕事に忙殺されそうです.長い間の懸案ですから,宝物

の時間を費やすのに悔いはありません.

 このところ,世間では,明るいニュースがありますね.イチローの9年連続200本以

上の安打記録もそのひとつですね.約100年以上も塗り替えられなかった記録です

から,文字通り,100年に1回出てくるような人物,それがイチローであるといえま

す.この100年に一度しか得られないような偉業を,直に見て考えることができるの

ですから,それは,なんと光栄なことかと思います.

 100年前と言えば,日本では日露戦争の直後,ヨーロッパでは,第1次世界大戦の

直前の頃です.1911年には,マリー・キューリーが二度目のノーベル賞を受けてい

ます.この頃,ドイツでは,第1次世界大戦に備えて,ある技術開発が国の将来を

決める帰趨として注目されていました.それが,後の「ハーバー・ボッシュ法」と呼ば

れる電気化学の手法でした.「ハーバー」は電気化学者の名前,「ボッシュ」は,そ

の理論を実用化させた技術者でした.

 この手法は1913年に確立されましたが,それが工業的に本格的な展開を可能と

するには,そのボッシュを中心とした血のにじむような20年余の技術開発の歳月が

必要でした.しかし,この努力のおかげもあって,ドイツは,世界をリードする近代

電気化学の国となっていくことができました.そして,今なお,そのハーバー・ボッ

シュ法は,空中の窒素固定を行う窒素肥料技術として世界的に利用され続けてい

ます.

 約100年を経ても,それを凌駕する技術が出てこない,それは,その技術がすばら

しかった証拠でもありますが,そのように歴史に残る技術は,そんなに多くはありま

せん.膨大な人と金,そして時間をかけて,このような発明や開発を目指していま

すが,それを「ブレイクスルー」することができないのです.

 ところが,イチローは,その世界こそ違いますが,その100年に一度の「ブレイクス

ルー」を成し遂げたのですから,そこには私たちが学ぶべき貴重な教訓が存在する

はずです.

                                              (つづく)

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