100年間,だれも成し遂げられなかった記録を更新させたイチロー,彼のスタイル

は,明らかに他の選手とは異なっています.毎朝,カレーを食べ,一頃は,「白い巨

頭」のテレビドラマを繰り返し観ていた彼ですが,同じことをくり返しながらも,そこに

重要な変化を求めていく,このスタイルが彼流であり,独特なのだと思います.

 しかし,もっと重要で独創的なことは,他の選手とはまったく異なるものを目指した

ことにありました.近代野球が発展し始めると,ベーブ・ルース,ハンク・アーロンを

はじめとするホームランバッターが注目を集めるようになりました.日本でも,王,

長嶋が競ったのはホームランでした.華々しくホームランをかっ飛ばして拍手大喝

さいを浴びながら,ベースを周る姿は,とにかく絵になりますので,みな野球選手

は,それにあこがれ,そのようになりたいと思うようになりました.

 ところが,イチローは最初からホームランを狙える打者でもなく,もともとは,投手

としてドラフト選手に迎えられたのでした.今でも肩が強いのは,そのせいですが,

その投手よりも打者としての才覚があることを見出され,それを伸ばしたことが今

日に繋がっています.そして,イチローが目指したのは,コツコツと安打を打って積

み重ねる,それは自分流でもあり,そのことに自らを見出し,新しい社会的・スポー

ツ的価値を創造することに成功したのです.

 しかも,それは誰も歩んだことがない谷間,すなわち,「ブレイクスルーの谷間」

だったのです.全身全霊の努力とたゆまぬ粘りで,その谷間に足を踏み入れること

を可能にしたのがイチローであり,その成果こそ彼の独壇場となったのです.

 来る日も来る日も,体調を整え,打席に入ってはヒットを打ち続ける,そして果てし

ない記録の旅を重ねるのですから,そこにはゴールがあるのではなく,前人未踏の

ブレイクスルーの広大な谷間があるのみです.

 イチローは,このフロンティアの道を歩み続けることに最大の喜びを覚えるまで

に,自らを高めることに成功したことから,そのために誰にもできない努力をする

ことができるようになりました.だからこそ,100年に一度の人物にもなり得たのだ

と思います.この粘り強い努力が,稀有な人物を創りだすことに成功したのです.

 このフロンティアのブレイクスルーは,これから,ますます佳境に入り,その彩り

を増すことでしょう.

 ところで,このイチローの偉業には,とてもかないませんが,ホームランではなくて

いろいろな安打を打つという間口の広さ,コツコツと安打を打ちながら実績を重ねる

姿勢,そして気の遠くなるような時間をかけることなど,それらは,どこかマイクロバ

ブルの仕事と似ているところがあります.ですから,これからも,イチローのそれを

観て,感じて,そして刺激を受けながら,マイクロバブルの「ブレイクスルー」に,どう

役立てるか,それを考えることはとても有益であり,しかも楽しいことであると思って

います.そして,その実現を可能とするジグソーパズルの謎を徐々に解き明かして

いきたいと思っています.

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