5500回記念を迎えて(3)

 イノベーションとは何か、この本質に迫る下記の名著が出てきましたので紹介します。

 『人類とイノベーションー世界は「自由」と「失敗」で進化する』、マット・リドレー、ニューズピックス発行、2021年。

 本書は、発売当初から、米英でベストセラーを記録しています。

 また、著者は、1958年英国生まれ、世界的に著名な科学・経済啓蒙家であり、英国貴族院(子爵)、元ノーザンロック銀行チェアマンです。

 本書の冒頭には、「イノベーションと何か」が、非常に解りやすく説明されています。

 この世の中にはさまざまなイノベーションが発生し、生物学的にもイノベーションが生まれてきたが、「それらに共通するするのは、ありえなさが高められていることである」と述べれれています。

 しかも、その「ありえなさ」は、かれが引用している小鴨やiフォンであっても、それは「天文学的ありえなさである」とされています。

 そしてイノベーションは、進化と同様に、「役に立つかたちに、万物を再配列する方法をどんどん見出していくプロセスである」とも表現されています。

   そして、イノベーションとは、

 「エネルギーを利用してありえないものをつくり、つくられたものが広まるのを確かめるための、新たな方法を見つけることを意味する。

 それは『発明』よりもはるかに大きな意味を持つ」

とも記されています。

エジソンの電球の発明の場合

 ここで、エジソンの電球の開発を例にとってみましょう。

 エジソンは、じつに約6000にも達する電球のフィラメントの材料を試し、最後に、日本製の扇に用いられていた竹の採用によって長時間光り輝く電球を発明しました。

 それは、「ありえないもの」を発明したですが、その電球は、クリスマスを祝うことに好んで使用され、それを見たアメリカ国民は大変喜びました。

 すなわち、クリスマスの夜を祝うという新たな方法が、その電球の発明によって見つけられたのです。

 その新たな方法が見出され、喜ばれたことが、単なる電球の発明では終わりませんでした。

 この電球を梃子にして、アメリカ国民の生活をさまざまに変えていくというイノベーションへと発展させていったことに、はるかに大きな意味があったということができるでしょう。

光マイクロバブルの場合

 それでは、私が初めて開発した光マイクロバブル技術の場合は、どうでしょうか? 

 その最初は、それまでの苦節約15年を経ての光マイクロバブル発生装置の開発にありました。

 この発明の狙いは、単にごく小さな気泡を発生させたい、そして、それによって非常に効率の良い溶存酸素濃度を得ることができるのではないかということにありました。

 しかし、いざ、マイクロバブルの発生が可能になっても、その絶対量が少なかったことから、すなわち溶存酸素効率は高まったものの、それはまったく実用の段階には至っていませんでした。

 今考えてみると、これは単なる発明に終わるか、それともイノベーションへと発展するのか、重大な分かれ道が存在していたのです。

 これは次の「2つの道」を巡る選択の問題でした。

 (1)発生するマイクロバブルの絶対量は少なくても、吸入する気体の濃度を上げることによって、より気体溶解効率を向上させる方法を選ぶ。

 (2)発生するマイクロバブルの絶対量は少なくても、そこに、新たな機能性を見出し、その実用的な適用を可能にする方法を選ぶ。

 私は、この(1)を選びながらも、その過程において偶然で、しかも幸運なことに、その(2)を発見したことによって、それを徹底して探求することを選択しました。

 これらについては、後ほど詳しく考察することにしますが、この(2)の選択こそが、本物のイノベーションへの扉を開くことに結びついたのでした。

イノベーションの必要条件

 さて、マット・リドレーは、イノベーションの含む意味について、次のように述べています。

 「使う価値があるほど実用的で、手ごろな価格で、信頼できて、どこにでもあるおかげで、その発明が定着するところまで発展させる」

 ①実用的な価値がある

 ②手ごろな価格である

 ③信頼できる

 ④どこにでもある

 ⑤発明が定着するまで発展する

 これらは、たしかに、イノベーションとなるための「わかりやすい指標」といえますので、これを「リドレーの必要条件」ということにしましょう。

 これらは、単なる発明で実用的価値のないものはイノベーションになりえないことを示し、誰もが、それを購入できることを可能にし、さらに、科学的な根拠に裏打ちされた技術的信頼があることを意味しています。

 また、簡単に手に入れることができる材料で作ることができ、商品としてどこでも買うことができること、そして、その発明がどこにおいても定着して慣用的な技術になっていくという発展が達成されることを示唆しています。

 マット・リドレーは、この「定着期間」について15年が必要だともいっています。

 このように、かれの「イノベーション論」は非常に解りやすく、そして人類史の考察に基づいて叙述されていますので、先のクリステンセンらの「イノベーション論」よりは解りやすいという特徴を有しているように思われます。

 次回においては、このマット・リドレーによる「イノベーション論」により深く分け入っていくことにしましょう(つづく)。

mannkaisakura-0420
                満開の桜(近くの公園で)