銀漢の賦

 只今、NHKBS1の放送で、葉室麟著作の『銀漢の賦』が放送されています。

 この著作を初めて読んだのは、たしか12年前の病床に伏していたころのことでした。

 竹馬の友であった二人の武士と一人の百姓の物語であり、厚き友情を大切にして不正と殿様の横暴に立ち向かっていくことがおもしろく、こんな素敵な小説家が居たのかと思わずうれしくなったことを思い出します。

 葉室麟は、同じ小説家の松本清張と同じ北九州市の出身であったことから、かれは、葉室にとっては大先輩、見上げるような存在であったのではないでしょうか。

 葉室は、成長と同じく遅咲きの作家でした。

 若いころは、成長と同じ新聞記者をしながら、50歳になってようやく創作活動に入りました。

 そして、56歳の時に『乾山晩愁』で第29回歴史文学賞を受賞しました。

 上記の『銀漢の賦』は58歳の時の作品であり、目標のひとつであった「松本清張賞」を受けています。

 郷土の大先輩であった松本清張に因んだ賞をいただいて、かれは作家として身を立てていく意思を、さらに強めたことでしょう。

 さて、銀漢とは星空の「天の川」のことです。

 幼き頃に、主人公の日下部源五と剣道仲間であった松浦将監、そして百姓の十蔵の三人であり、かれらが夜空を見上げた天上には、みごとに美しい天の川が燦然と輝いていました。

 そして、この3人は、この天の川の下で、互いに信頼と友情を分かち合って生きていこうと誓い合ったのでした。

 銀漢の賦とは、この天の川を観て、若き将鑑が、十蔵に贈った漢詩のなかの言葉でした。

 「賦」とは授かったもの、すなわち、天の川を観ながら、三人で誓い合った友情を抱いたことだったのです。

 時が過ぎ、源五は下級武士のままで、将監は、反対に出世して家老にまでなっていました。

 家老として必死で藩に仕えてきましたが、その職を退くころに、上記の国替え問題が起こり、そのせいで藩主に疎まれるようになりました。

 かれにとっては、幕府の突然の国替え命令は、その故郷を奪うことであり、それは、たとえ藩主の意向に逆らってでも、それを阻止しなければならない問題でした。

 一方の源五は、藩主の密命を受けて将監の命を奪えといわれ、将監と対峙しましたが、その度に「銀漢の賦」のことが思い出されてしまい、最後には、将監の本意を知らされて、逆にかれを助けるようになります。

 最後のクライマックスは、藩境の峠において将監が脱藩しようとしていた時のことでした。

 源五は、将監を殺めるのではなく、かれが追っ手に捕まって危うくなろうとしていた時に、逆に追っ手に立ち向かい、将監と共に追手と戦い続けたのでした

 そして、源五らは、必死で追っ手を跳ね返して、将監の脱藩を無事為し遂げさせたのでした。

 この戦いには、源五の他に、長い間女中として一緒に暮らしていた十蔵の娘の蕗が加わっていました。

 この戦いが終わってほっと安堵していた源五に、その蕗が自分の思いを素直に打ち明けます。

 それは、末永く、源五の妻として寄り添いたいという念願でした。

 源五は、それを真摯に受け入れ、三人で交わした「銀漢の賦」だけではなく、生涯の妻としての「賦」を得ることになったのでした。

 この終末の素晴らしさに、私の心は、病床のなかで大いに揺すられたのでした。

 以来、この葉室麟の小説を片っ端から読み進め、葉室文学の粋を究めることができました。

 それらは、私にとってよりすばらしい「賦」となったのでした。

 このBS番組は、未だ4回目が終わったところであり、残りは2回あるようです。

 この視聴を楽しみにして、私にとっての「銀漢の賦は、何であろうか?」を改めて考えみようかと思っています(つづく)。

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                  ミモザ(前庭)