未来は青年のもの (8)
  
 藤井聡太八冠の快進撃が続いています。

 先日は、竜王戦で4連勝を達成し、そして今回は王将戦にいて同じく4連勝を達成しました。

 これらの戦いを拝見し、藤井聡太八冠がますます強くなってきているなと思いました。

 なぜ、このように強くなったのか、ここが非常におもしろいところです。

 藤井八冠の先達として七冠を達成していたのが羽生九段でした。

 かれが自分のことを振り返って、次のようにいったことが記憶に残っています。

 「今振り返りますと、七冠達成後よりも、その七冠を実現する前の方が大変でした」

 この見解の通り、羽生七冠は、その達成までに非常に苦労されていました。

 それに対して、最後の永瀬王座との戦いで負けそうになった時もありましたが、それでも何とか乗り越えて夢の八冠を実現させました。

 やはり、このような修羅場を何度も積み重ねてきたことが、ゆるぎない自信と強さの形成に有効に結びついたのでしょう。

 これは、羽生七冠後の強さに発揮とよく似ています。

 八冠という偉業達成とそこに宿されている謙虚な姿勢が、花開いてより一層将棋の内容を研ぎ澄ませていくようになったからではないでしょうか?

 竜王戦、王将戦における藤井聡太八冠の勝ち方の特徴は、前半戦で優位になり、それを中盤戦においてより確実にし、終盤戦に至っても、その優位性が変化しないままに勝ち切ることにありました。

 挑戦者の方は、いろいろと作戦を練ってあれやこれやと知恵を捻ってくるのですが、それを迎え撃つ八冠の方は、いずれも状況に対応して、そこで優位になるように指し手を創造していくのです。

 相手の方は、終盤における藤井八冠の鋭さと強さをよく理解していますので、その前に優位さを確保し、持ち時間も藤井八冠に多くを使用させるように仕向けるのですが、これが功を奏したことは一度もありませんでした。

 先日の王将戦第4戦の勝利によって、王将を防衛するとともに、藤井八冠は、タイトル戦連続勝利において、それまでの記録保持者の大山康晴第15世名人による19回連続勝利の記録を破って20連勝という新記録を達成しました。

 将棋に詳しい年配の棋士によれば、大山名人と藤井八冠とは、その勝ち方に明確な相異があるようで、それは、終盤における圧倒的な攻勢によって相手を打ち負かすという藤井流が、大山名人にはなかったそうです。

 また、藤井八冠の謙虚で優れた人格ややさしい人間性が、その強さにも重要な影響を与えているということも強調されていました。

 「誰か、弁当を買ってきてくれませんか?」

 あるとき、古参の棋士が、若い棋士に、こう頼んだそうです。

 そしたら、藤井八冠が、

 「僕ぼく行ってきます!」

といって、買ってきてくれたそうです。

 この素直で、謙虚な姿勢は、将棋においても鋭く貫かれています。

 将棋に勝って、対局者同士が感想戦を行う時に、勝った藤井八冠の方から話始めることは一度もありません。

 相手から、話しかけられると、やさしく、謙虚に小さな声で答えながら感想を述べ合います。

 負けた相手のことをよく考えながら、決して奢らず、批判もせず、素直に、自分のどこが至らなかったかも正直に述べながら真摯な感想戦を毎回行っています。

 将棋が幼いころから好きで、相手に対してはやさしくて謙虚、八冠という偉業を成し遂げても、ほとんど何も変わることなく、将棋の修行に努めながら防衛を重ねていくことには、これまでにない棋士の姿が観えています。

 それゆえに、誰もが、この姿を観たくて、そして、どういう手を指すのかについても興味深いことが人気を集めているのではないでしょうか。

藤井八冠の創造性

 私は、この藤井八冠の勝ち方を観ていると、そこには、対戦相手とは大きく異なる彼特有の豊かな創造性の発揮があるのではないかと推察しています。

 最初は、AI将棋を駆使して学び、新人としてのいきなりの29連勝を皮切りにして、とうとう八冠のタイトルまで奪取するようになったことには、かれの将棋の指し手における創造性の発展があったのではないでしょうか。

 創造性が最も発揮される年齢は、15歳から40歳までといわれています。

 この発揮が、最も必要でなされるのは、自分が不利になって追い込まれてきたときに、それを跳ね返すときであり、そのような時に、藤井八冠は、余裕をもって盤面を観察している解説棋士やAIが予想しないような手を打つことがあります。

 これぞ、読みの深さと確実性の賜物であり、おそらく、その読み筋が、脳のなかで観えているのではないでしょうか。

 この読みと観ることは、その修行を重ね、洗練させることによって可能になることであり、それが「あり得ない手」を打つことに現れてくるのだと思います。

 かれは、未だ21歳ですので、この創造性を、これから十数年鍛え、洗練、発展させていくことができると推察できますので、この八冠独走の時代は持続していくことでしょう。

 この始まったばかりの快進撃は、将棋の未来を若者が築いていくという実践の手本となっていくでしょう。

 この姿を子供たちが観て、第二、第三の藤井棋士が出てくることを考えると、じつにゆかいな気持ちになりますね(つづく)。

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弘法大使像(清水寺)