第六報における視点(2)
今回の第六報(高専発のマイクロバブル技術(1))における第2の視点について解説を試みましょう。
以下は、その本文です。
「第2は、現場における技術開発の目標達成が優先されたことから、微細気泡に関する物理科学的特性を究明することが、常に後追いで究明されるという過程を経たことである。
しかも、国内外に先行的な研究事例はなく、その装置開発、計測法、物理化学的特性、生物的機能性などの関しては独自の手法を見出し、評価・確立する必要があった」
いきなりの、しかも安請負の「共同研究」が成立したことが、マイクロバブルへと接近していく、ある意味で幸運な出来事でしたので、その時のことは、今でもよく覚えています。
それは、排水処理に関する技術開発委員会の席上においての私の発言が、重要な契機となりました。
その委員会において、試作した排水処理装置の性能が悪く、その原因について詳しい検討がなされていました。
なにせ、初めて参加する委員会でしたので、発言を控えていました。
そして、その処理効率が、よくない原因が、そのプラント内の気泡の流動機構が芳しくないことにあるのではないかと推察できました。
しかし、だれも、その指摘を行わなかったので、しびれを切らして、こういいました。
「その原因は、装置内の気泡の流動機構にあります。
その装置のなかでは、気泡が上部のみで流動していて、下にまで下りていないのではないですか?
その流動機構を改善しないと、汚水の処理効率はあガラりませんよ!」
こう指摘しても、どなたも、私の意見に賛成する方はいませんでした。
しばらくの沈黙の後に、こう続けました。
「解りました。
そうであれば、私が、それを証明しますので、それと同じ可視化水槽を作ってください。
それを見れば、すぐにわかることですよ」
これには、すべての方々が、すぐに賛意を示しました。
その結果、縦横90㎝、高さ250㎝の立派なアクリル樹脂水槽が、私の実験室に配備されることになりました。
そして関係者のみなさんが集まるなか、その目の前で実験を行ったところ、私が指摘したように、気泡は、その上部のみで流動しているだけで、それが中部、下部まで下りてきていませんでした。
まさに、「百聞は一見にしかず」でした。
ここで、私が、次のように発言しました。
「このようなエアレーション装置を使ったからですよ!」
これを傍で聞いていた、その開発委員会を主宰していた地元中小企業のY社長が、目ざとく反応して、即座に、こういいました。
「そうであれば、先生、もっといい装置を造っていただけませんか?」
みなさんがいるなかでしたが、私も、それに反応して、オウム返しに、こういいました。
「あぁー、いいですよ!」
Y社長は、非常に嬉しそうでした。
そう告げて、私は、一瞬躊躇(ちゅうちょ)しましたが、それを翻すことはできませんでした。
じつは、私のマイクロバブル研究は、この「軽はずみの発言」からスタートしたのでした。
そこで、既往の微細気泡発生装置に関する文献を調べましたが、この採用された、かれらが、世界最高水準の曝気装置(OHRエアレーター)として推奨していた解説書しか有力なものがなく、それを精査することにしました。
そこに重大な問題点を見出したこと、そしてその改善を行ったことについては、前記事において紹介しました。
その時、困ったことは、微細気泡に関する研究文献が非常に少なかったことでした。
当時の私は、先達の研究を文献によって学ぶことが大切だと思っていましたので、それがないということには小さくない戸惑いを覚えました。
そうであれば、自分で考え、研究するしかない、このように割り切るには、しばらくの時間が必要でした。
頼るのは、自分の目と頭しかない。
これは、荒野のなかに、わが身が投げ出されたことと同じでした。
その荒野の向こうに、最初の目的地がありました。
それは、マイクロバブルのみを大量に発生させる装置の開発を成し遂げることでした。
上記のW型装置では、それができていませんでしたので、そこから15年という歳月を要して、ようやく、その目的地にたどり着いたのでした。
「青年は荒野をめざす」は、私が若い時に好きだった歌でしたが、その時の私は、青年を過ぎて中年になっていました。
次回は、マイクロバブルの物理化学的特性のなかで、最も重要な部分に分け入ることにしましょう(つづく)。
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