第三報の特徴
すでに述べてきたように、第一報の主題は、技術と人間の関係、すなわち技術論的視点を踏まえて高専教育のあり方を考察することにありました。
また、第二報においては、「高専史における独創的長所形成過程」と題して、5つの長所を考察しました。
次の第三報においては、「創造的技術教育の特徴と限界」について論究しました。
基本的には、この教育は、それまでの実践的技術教育の発展形と定めることができます。
しかし、そこには、実践的技術教育と同様に、いくつかの長所と短所を有していましたので、その特徴を明らかにしながら、その限界を究明しました。
その前者における最も重要な究明のひとつが、実践的教育を創造的教育に概念的に結びつけたことにありました。
これによって、実践的技術教育は単に実験実習の時間を増やすという段階から、そこに創造性を意識させるようになり、それを実験実習という領域から、より拡張した教育領域へと拡大していくことになりました。
この拡大の契機は、高専の内部からではなく、森政弘東工大名誉教授が開発された「アイデア対決高専ロボコン」という、いわば外部における創造的実践が非常に重要な役割を果たしました。
この受容における成功は、その第一に森政弘氏の創造力があり、その第二には、高専生の頑張りと、それを通じての自己確立実践があり、その第三には、それを視聴した多くの国民の共感がありました。
この体験的で創造的な経験は、高専生自身の自信形成に寄与し、さらには、高専全体にも教育的刺激をもたらし、高専内部においても創造教育とは何かに関する本質的探究を促したのでした。
創造的技術教育の光と影
しかし、新たな教育実践が開始される時には、よく観られるように、そこには、後者に関する弱点も併せて持ち合わせていました。
その第一は、当初において高専教員が創造的技術教育に関する理解がほとんどなされていないか、あるいは、それがあっても浅く貧弱だったことでした。
その現象は、創造教育に関する研究を成果を学会において発表しながら、その中身をより深く詳しく教えてくださいという質問に対して、それは私の学校のホームページに掲載されていますので、そちらをご覧くださいと、堂々といってのける事例に出くわしたことでした。
自らが、創造教育の本質を探究せず、上辺だけを追求しているだけで学会発表を行うという、真のお粗末な事態にめぐりあい、私はいささか呆れていました。
もう一つは、長岡技術科学大学を会場として開かれた日本高専学会年会の特別講演において、その講演者が高専の創造的技術教育のことを紹介した際に、そこにいた大学教授が、次のように質問されました。
「大学にける研究は創造活動であるので、創造そのものは教育目標にはなりません。高専でいう創造的技術教育とは、どのようなものなのでしょうか。詳しく教えてください」
これに対して、その講演者は何も言えず、立ち往生したままでした。
特別講演者が、そのようなことでは困るのですが、このシーンに遭遇して、高専における創造教育のあり方に関する本格な究明を行う必要があることを痛感しました。
さて、ここで注意を要することは、高専において創造教育を行うことと、それを教育目標に据えることをきちんと区別して考えることです。
この明確な区別がなされないままに、そしてより深い本質的な理解なしに受容してしまうことによって、上記の現象が出現したのではないかと思われます。
高専において、創造的技術教育が教育目標として掲げられたのは、高専の専攻科においてでした。
当時の高専本科においては実践的技術教育、専攻科においては創造的技術教育、という、いわば二段階の教育目標の設定がなされていました。
なぜ、専攻科において創造技術教育なのかは、ほとんど議論されず、一部の関係者による議論によって決められたようですが、それが明らかにされた際には、「これは何を表し、どうすればよいのであろうか?」と思いました。
専攻科においては、本科の卒業研究に対し、「特別研究」が設けられ余した。
ここでは、より研究を深めた論文提出が求められ、しかも、それを事前に学位授与機構に提出して論文審査とヒヤリング審査を受けることが義務付けられました。
要するに、学士として高専専攻科生を輩出する際の認定において、高専教員は、その水準に達していないという判断が下されていたのでした。
おかしなことに、専攻科生の研究成果、学会発表成果、論文成果が問われ、審査されるのではなく、中途半端なレポート的文書で、その審査が行われるということがなされたのでした。
そして実際に、その審査において不合格になった事例を耳にしたことがありましたが、そこには、書類やヒヤリングだけで審査するということに問題を覚えたこともありました。
一番の問題は、その審査を行う大学教員が、自ら教えている同年齢の大学生ときとんと比較すれば明らかなことであり、その専攻科2年生の実績が、大学生と比較してはるかに勝っていることがよく認識されていなかったのではないでしょうか。
次回においては、この問題により深く分け入っていきましょう(つづく)。
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