鹽竃(しおがま)
芭蕉一行が、鹽竃(塩釜)に到着したのは、5月9日のことでした。
ここは、古くから多くの魚が水揚げされる漁港であり、とくに鮪は有名であり、2021年には、クロマグロとメバチマグロの水揚げ量は日本一を記録しています。
おそらく、芭蕉一行も、このマグロを食したことでしょう。
この地で最初に訪れたのが鹽竈神社でした。
約200段もある階段を前にして、森村芭蕉も一瞬たじろいたようでしたが、そこは若い頃に全国の山々を放浪するように歩いて周った健脚を思いだされたようで、その階段を上る一歩が神社の神に近づいていくのだという思いにふけっておられるようでした。
この神社は、平安初期の書物に記されているそうで、かなり古い由緒があるようで、伊達家の藩主が歴代社主を務めてきたそうです。
ここの境内には、源義経のシンパであった和泉三郎が寄進した「文治鉄塔」があり、芭蕉は、これを観て、次の文を寄せています。
「500年来の俤(おもかげ)、今目の前に浮かびて、そゞろに珍し」
芭蕉は、この鉄塔を観て、約500年前の源義経とその死に準じた和泉三郎のことを偲んだことでしょう。
文治の鉄塔(HP文化の港シオーモより引用)
森村さんは、この鉄塔をまるで砲塔だと仰られていました。
バージンオイスター
塩釜といえば、Mさんという友人がおられました。
宮城地方のカキの卸売業をなされていた方で、光マイクロバブル技術についても関心を示されていました。
2012年5月から開始された東日本大震災復興緊急プログラムにおいて、大船渡湾に大型の光マイクロバブル発生装置を設置してカキ養殖の復興を図ることになりました。
この時、このMさんが、その支援に駆け付けてくださいました。
とくに、私たちが助かったのは、車を用意してくださり、装置の設営にも手助けしていただいたことでした。
この時、その行き帰りの車の中で、東北のカキ養殖の問題、あるいはMさんがやりたかったカキ養殖改善方法などについて大いに意見交換をすることができました。
そのなかで、かれが、とくに熱心に説いていたのは、「バージンオイスター」の誕生のことでした。
このバージンオイスターとは、無放卵カキのことでした。
春から夏にかけて海水の気温が上昇し、水温が18℃以上になってくるとカキが産卵するようになります。
その様子は、腹の部分がミルクのように白くなりますので、その色で産卵状態を確かめることができます。
すでに、この無放卵カキの誕生問題については、1999~2000年において広島江田島湾において、光マイクロバブルによる産卵制御を行い、Mさんがいうバージンオイスターの誕生を可能にしたことを経験していました。
広島も宮城も同じなのですが、昨今のカキは、自らが成長しないままに、すなわち幼い身体でありながらも産卵し、それを早期に放卵してしまい、虚弱なカキができてしまうという現象が起こり続けていました。
この場合、産卵制御とは、産卵しても、その卵を放卵させないで成長させ続けることで、その結果、1年物のカキを育てることをできるようにすることです。
「Mさん、あなたのいうバージン・オイスターを誕生させることは非常重要な課題ですね。
広島の江田島湾で、その光マイクロバブルによる産卵制御を行ったことがありますので、それが再現できるかどうか、しっかり観察していきたいと思います」
「本当ですか?バージンオイスターを誕生させることが、私の長年の夢でした。ぜひとも、よろしくお願いします」
この難問を解決する方法は、光マイクロバブルを十分に供給することによって、産卵したカキを放卵にではなく成長に向かわせることです。
カキ漁師の言葉では、産卵した卵を身に換える、すなわち身入りさせることを光マイクロバブルで可能にしようとする方法です。
その理由は、1)光マイクロバブルの生理活性によって、より積極的に成長しようという本来の機能が高まる、2)光マイクロバブルによって小さな上昇流が形成され、下部の低温海水を上部にまで流動させることによって、放卵よりも身入りの作用を促す、3)餌であるプランクトンが、2)の上昇流によって浮上し、摂りこみやすくなる、などにありました。
さて、その光マイクロバブルによるカキの産卵制御は、大船渡湾において実際に、どう実現されたのでしょうか?
こんな話は、松尾芭蕉も森村芭蕉も、吃驚仰天の話ですね!
次回は、そのバージンオイスターの誕生について分け入ることにしましょう(つづく)。

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