追悼・久松俊一先生(10)
おかげさまで、木更津の「かずさアカデミアホール」で開催された日本高専学会年会・講演会は小さくない成功を修めることができました。
その第一は、約1000名を超える参加者を得たことでした。
その多くは、ちびっこの夏休み工作やロボコンの映画や記念講演への参加者でしたが、これによって日本高専学会の裾野が大きく広がりました。
久松俊一先生は、副会長に就任されての初舞台で、地元年会実行委員長として改革の挨拶をなされました。
この年会・講演会を転機にして活動の改善と発展を目指そうと思っていましたので、それを、手始めに、この年会・講演会を弾みにしよと思って、次の3つの課題を明らかにしました。
そのことが、下記の私の追悼文のなかに明記されています。
「・・・・その第一は,いかに日本高専学会を魅力的な学会にしていくかを探究していくかという問題であり,そのために理論的な水準をより高めていく必要がありました.
これに関しては,すでに述べてきたように,久松先生を軸にしての教養教育に関する注目すべき発展があり,これを実践的な技術者教育として総合化していくことが重要でした」
日本高専学会は、高専と高専教育、技術者教育などを総合的に研究することを目的にした組織であり、上記のように、
1)魅力的な学会になっていくことの探究
2)理論的な水準を高める
ことが非常に重要であり、そのことを久松俊一先生と私は、共に認識していました。
しかし、この2)に関して、私には、痛烈な反省がありました。
それは、1989年3月に、日教組大学部高専部から発行された『高専白書(第三次)』において、巻頭の論文を書くことになり、それに大変苦労したことでした。
その題目は、「高専の民主的改革と未来」としたのですが、この大上段に構えすぎたことが原因で、高専の未来像が描かず、小さくない苦労を味わうことになりました。
正直にいえば、「民主的改革」については、それなりにみなさんと議論をしていていたのに、その未来については、よく考えいなかったので、書きようがありませんでした。
そのことに気付いてからは、「どうしようか?」と苦悶の日々が続きました。
これまでの資料や文献をいくら調べても、参考になるものがなく、それを自分で考えるしかないと観念し、まずは、その視点を次のように確立しました。
① 日本の科学技術の将来を展望する視点から高専と高専教育を考える。
② 先の「幻の専科大学構想」の時のように、高専の改革論議を運上のものとせずに、現実に根ざした民主的な改革論議を巻き起こす。
③ 国専協(国立高等専門学校協会)、文部省、大学審議会の動きを注視し、秘密主義の審議や反国民的な「専科大学構想」に反対するとともに、われわれの立場から改革案を有効に提示する。
④ 全専協(全国大学高専教職員組合)を中心に我々の改革案づくりを活発化する。
そして、文字通り、必死で、なんとか考え、絞り出したのが、次の7つの「高専改革の基本」でした。
1)学問の自由と自治を確立する(高専では、予算権、人事権がなく、すべてが校長に集中されている)。
2)総合的で真の実践的な技術者を養成し、わが国を代表する技術者養成機関になるために、予算と定員を確保する。
3)高専生の学力と心身の発達に応じたカリキュラムの確立を行う。とくに、前期、中期、後期に則した三段階の学習と発達論を検討する。
4)創造性を十分に発揮できる真の実践的技術教育を行う。
5)クラブ活動、寮などを十分に生かした高専教育。
6)研究の保障と十分な条件整備を行う。
これで精一杯というところでしょうか。
検討が不十分という側面が出ていますが、それでも一歩前に出たことになりました。
結果的に、この白書は、非常に評判になり、当時の国専協がまとめて人数分を注文したこともあって、すぐに売り切れてしまい、慌てて増す刷りを行うほどでした。
また、恩師であったU高専校長のO先生から、この論文の件で声をかけてくださったこともありました。
それから、5年後の1994年に、『私たちの高専改革プラン』が発刊されました。
このプロジェクトにおいては、全国からの英知(10名)が集まりましたので、さらに、この改革と未来に関する充実した成果が生まれることになりました。
ここでは、すでに述べてきたように、この改革プランにおいて、3つの提言がなされ、その第1が、日本高専学会の創立を行おうというものでした。
そして、その創立から10年が経過し、その高専と高専改革に関する総合的な研究に関する理論水準を上げていこう、この共通の指向が育ってきたのでした。
それは、細やかではありましたが、高専史における教育研究における新たな潮流の形成が芽生え、徐々に張ってしていった現象でした。
その特徴は、次の4つにありました。
①高専の民主的改革によって、高専をわが国を代表する技術者教育機関にしていくために、高専生の全面的な発達を可能にする実践的な技術教育のあり方を探究する。
②木更津高専の「特別研究」を中心にした一般科目教員による教養教育のあり方を探究する。
➂専門科目における創造教育を豊かに発展させる。
④地域に根ざした高専づくりのを探究する。
これらの有機的な関係を明らかにし、久松先生には、①と②、私は、➂と④を主として担当しながら、それらを日本高専学会として議論を重ねることで、その理論化に努めていきました(つづく)。
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