追悼・久松俊一先生(9)
1995年8月1日に,画期的な日本高専学会が創立されました.
改めて,これを準備された方々に深く感謝いたします.
私は,この年の8月31日に,留学先のアメリカ南カリフォルニア大学から帰国しました.
その時,最初に感じたのは,狭い空間に小さな建物が林立していたことでした.
「ミニアメリカ社会」,それが日本の現実でした.
当時は,アメリカの25年後が日本とよくいわれていましたが,その通りの日本に再び遭遇して複雑な想いになったことを記憶しています.
第二は,日本固有の蒸し暑さでした.高温多湿の天候になかで豊かな緑に覆われていた日本列島の素晴らしさを再確認しました.
緑の少ない,そして低温で少ない湿度のカリフォルニアとは対照的でした.
第三は,テレビに映された「日本人のほとんどの顔が疲れている」ように見えたことでした.
それまでは,外国から日本を観ることができませんでしたので,その意味では,外から内を観ることは貴重なことでしたが,「みんな疲れている」と観えたことはふしぎでした.
おそらく,留学前の私も,このような顔をしていたのであろうと思いました.
それは,私が,ドイツ,アメリカの生活によってリフレッシュして帰国したせいだったのかもしれません.
さて,この時から,平会員,理事を経て,約8年を経過して日本高専学会副会長となり,その2年後の2003年の8月に会長に就任しました.
この時に,久松俊一先生も副会長に就任されました.
ここから,副会長,会長のコンビがスタートしたのでした.
今でも,よく想いだしますが,この時の私の心境は複雑で,小さくない難問を抱えていた日本高専学会をどう改革していこうか,ということで頭のなかが一杯になっていて,学会会長になったという感慨は,少しも湧いてきませんでした.
おそらく,久松先生も同じ想いだったのではないかと思われます.
こんな思いで,副会長・会長のコンビが開始されたのでした.
7.副会長・会長のコンビ
(1)10周年記念木更津年会
2004年7月31日に,日本高専学会10周年記念の年会・総会が,木更津の「かずさアカデミアホール」で開催され,久松先生は,副会長として開会の挨拶をなされ,私は会長として基調講演を行いました.
この時から4年間,副会長,会長としての二人三脚が開始されました.最初に,私たちが考えたのは,高専が日本を代表する技術者教育機関になるために,日本高専学会が,その総合的な研究の中核を担うことをめざしたのでした.
その第一は,いかに日本高専学会を魅力的な学会にしていくかを探究していくかという問題であり,そのために理論的な水準をより高めていく必要がありました.
これに関しては,すでに述べてきたように,久松先生を軸にしての教養教育に関する注目すべき発展があり,これを実践的な技術者教育として総合化していくことが重要でした.
第二は,日本高専学会としての活動の幅を広げていく課題でした.当時は,年1回の夏場の年会だけの開催だったことから,その半年後の冬場に連続シンポジウムを設け,定着させることをめざしました.
そのために,副会長の先生に技術者教育研究所の所長も兼ねていただき,これを核として学会全体の理論水準が徐々に向上していきました.
こうして,このシンポジウムは,これまで第28回を重ねています.
第三は,小さくない赤字に陥っていた学会財政を創立10周年記念を契機として共に尽力し,一挙に改善することでした(詳しくは後述).
さて,学会をどう改革していくか,その知恵を絞る必要がありました.
まず,その最初として,幸運にも学会創立10周年記念を兼ねた年会を開催することになりましたので,これをどう成功させるかについて考究しました.
その前年,前々年の年会が,松江と富山という地方で開催されていました.
それを主管する当該高専にとっては良いことでしたが,交通の便があまりよくなく,全国から集まりにくいという問題があり,年会に集まって来られる会員の方々も少なかったという反省がありました.
10周年という好機を生かして,首都圏か大阪圏,あるいは会員数が多い高専で年会をしばらく開催しよう,これを久松先生と相談して理事会に提案しました.
同時に,その開催を木更津高専のみなさんに引き受けていただくことを久松先生に依頼し,その快諾をしていただきました.
「とにかく,人がたくさん集まる記念の年会にしましょう!」
このことを呼びかけると,久松先生を中心にした木更津高専の会員に方々が次々に素晴らしいアイデアを出してくださるようになり,徐々に盛り上がっていきました.
その第一が,「かずさアカデミアホール」という素晴らしい会場を選んでいただいたことでした.
その会場の様子を,当ホールのHPから引用します.
かずさアカデミアホール入り口付近(当ホールHPから引用)
この奥にある階段に座って参加者の記念撮影が行われました.
この年会の目玉の一つが、ロボコンの森政弘先生の特別講演、東大教授の佐藤浩先生の記念講演、図書館情報大学の碇山みち子先生の特別講演という三講演でした。
次回においては、この記念年会をバネにして、その理論的活動を久松先生と共に発展させていったことに分け入ることにしましょう(つづく).
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