バブル経済の崩壊を繰り返す

 この数十年、ほぼ10年周期で日本経済がバブル崩壊を繰り返しています。

 その意味で、平成の30年はバブルに明けて、バブル崩壊で暮れた30年といわれています。

 別名では「失われた30年」ともいわれ、いくつもの分野で活力が次々に消失していきました。

 なかでも、戦後の日本人が苦労して創り上げてきた、そして古来以来の日本人の伝統でもあった「ものづくり精神」を喪失してきたこと重大な問題になっています。

 歴史作家として著名な塩野七生は、NHK100年インタビューのなかで、日本の在り方について、次のように述べていました。

 「日本は、ヴェネチア共和国に学ぶとよいですね。あの強大なローマ帝国の隣国として、この国は、000年もの長き間にわたって、互いに尊重しながら友好国として存立してきました。

 それは、どうした可能だったのか?

 ここが重要なのです。

 この国は、常に技術でローマ帝国に貢献することができたことから、ローマ帝国に重宝されてきたのです」

 同じように、この「ヴェネチア共和国」の南側に隣接しているボローニャにおいても、技術と文化を大切にする風土が形成されています。

 作家の井上ひさしさんがここを訪れ、ユニークな紀行体験を述べられています(『ボローニャ紀行』)。

 井上さんは、イタリアの空港に着くやいなや、手持ちの200万円を泥棒に盗まれてしまいます。

 それでも、ほとんど気にせずに取材に向かいました。

 そこで最初に訪れたのがボローニャ大学でした。

 この大学は、労働者と市民で造った組合によって創立された大学であり、今でも、その伝統が生きており、そこで実演されていた演劇を見学します。

 この演者のなかには浮浪者もいて、それが生活の糧(資金的補助)になっていたことに驚かれます。

 大学を中心にして、みんなの生活を支える伝統が生きていたのです。

 続いて、地元の工業高校を視察します。

 ここで開発されたのが、紅茶のパックを自動的に製作する機械であり、それを日本の有名な茶の会社も採用したのだそうです。

 その自動お茶パック製造装置の動画が紹介されていましたが、それはみごとな自動制御製造装置でした。

 ここで、井上さんは、その高校の校長に質問します。

 「あなたの学校では、何を大切にされて教育をなさっておられますか?」

 かれは、こう答えました。

 「私たちが一番大切におもっていることは、『過去』です」

 この意味がよく解らなかったので、井上さんは、さらに尋ねます。

 「過去とは、どういうことでしょうか。過去には、何があるのでしょうか?」

 「過去のあるのは、私たちのやってきたこと、すなわち、私たちの伝統です。

 これを大切にすることによって、今があるのです。

 その過去の伝統を教えることが、今に生きていくための重要な要なのです」

 井上さんは、それを聞いて、今度は、高校生に、何を学んでいるのかを尋ねました。

 「過去の伝統を大切にして学ぶことが重要です、それを今の技術に生かすことです」

 ここで、井上さんは驚かれます。

 それは、日本の高校生が持っている意見とはかなり違うのではないかとおもったからでした。

 過去の伝統を学ぶことによって、新たな開発を行う、その脈々とした営みのなかから、その自動お茶パック装置が出来上がったことに、奥の深い創造性が培われていることをまざまざと披露されたからでした。

 過去の伝統技術が、今と未来にわたって生きていくということは、どのようなことなのでしょうか?


モノづくりの天才だったレオナルド・ダ・ヴィンチ

 ここで思い出されるのが、レオナルド・ダ・ヴィンチのことです。

 あの「最後の晩餐」や「モナ・リザ」を描いた作者です。

 しかし、かれの作品は、これらの絵画に留まらず、運河や建築、軍事用武器、動物や人体の解剖図、飛行機など、様座な分野において発明がなされています。

 
ダ・ヴィンチ研究者で、物理学者のレナード・シュレインは、かれこそが英術家であり、同時に科学者でありえた唯一の人だったといっています。

 かれの父ピエロは、レオナルドが、嫡男でなく、しかも正妻の子ではなかったことから、そして、幼いころから優れた絵画を描く能力があるとみなしていたことから、かれをミラノの工房に弟子入りさせました。

 この決断が、レオナルドの芸術家としての才能を発揮させ、みごとにプロとしての修行を重ね、成長していったのでした。

 その才能が開花した作品が「
最後の晩餐」でした。

 これは、ある修道院の食堂の壁に描かれたものでしたが、遠近法を駆使したキリストの最後の晩餐の様子をリアルに、そして魅力あるストーリー性のある絵画として仕上げたことから、これが評判になり、この絵を一目見ようとヨーロッパ中から見学者が集まってきたそうです。

 しかし、レオナルドの絵の具に関する新たな試みは失敗して、すぐに絵の具があげ落ちて色あせてしまったそうです。

 しかし、今では、その原画が再現されていて、その素晴らしさに感銘を受けたことを覚えています。

 本記念シリーズのメインテーマは「モノづくり」であり、これが失われた30年のなかで、忘却のはるか彼方へ追いやられてしまいそうになっています。

 これから、1000年続いたヴェネチア共和国の変遷とダ・ヴィンチの芸術性と科学性に唄打ちされたモノづくりの妙を踏まえながら、その真理に迫っていきたいとおもいます。

 どうか、よろしく付き合いをお願いいたします(つづく)。

LEMB-1
光マイクロバブル(マイクロスコープ撮影画像(株)ナノプラネット研究所提供)