利上げ

 相次ぐ国債の金利の上昇にもかかわらず、アメリカにおける消費者物価指数は、8.6%(前年比8月)と上昇を続けています。

 そのため、FRB(連邦準備制度理事会)は、これを2%台に抑え込むために、これからも利上げを行っていくという姿勢を堅持しています。

 これは、この40年間におけるゼロ金利、株価を上げてきた金融政策の根本的な転換を図ろうとしていることの現れではないでしょうか。

 このまま今の物価高騰のインフレーションを放置しておくと、ますます物価が高騰し制御できなくなる可能性があることから、さらには、金利上昇による借金債務が増えていくからでもあり、現在は、その制御が可能かどうかの瀬戸際にきているようにおもわれます。

 さて、最近になって、しっかりした経済アナリストからは、「大恐慌」が進行しているという見解が示され始めています。

 「恐慌」とは、一般的に好景気のなかで突如として起こる急激な景気後退現象のこというようです。

 アメリカでは、株価が32000ドルという高水準を維持しながら、しかしそのGDPにおいては二期連続のマイナスを示し、明らかな景気後退(リセッション)が始まりました。

 相次ぐ物価高騰のなかでインフレーションも加速されていますので、インフレ下の不景気を表す「スタグフレーション」が進行しているという指摘もなされています。

 一方、経済アナリストの藤原直哉氏によれば、恐慌とは、「急激に大規模な信用収縮が起こることだ」、また「大恐慌」の「大」とは「長いことだ」と指摘されています。

 「信用収縮」は、一般に次のように定義されます。

 「『クレジット・クランチ』とも呼ばれ、銀行など金融機関が貸し出しを抑制することによって資金が不足し、市場の流動性が失われる状況をいいます。

 金融危機や不良債権処理などを背景に貸し渋りが起き、金利上昇や企業経営の圧迫を通じて経済に悪影響を与えるとされています(大和証券金融用語解説より)」

 今の状況は、FRBによって段階的に金利げがなされ、これまでのゼロ金利政策からの大転換とともに、深刻なインフレーションの進展を防ごうとして、それが借金を基本とした経営からの脱却を起こさせようとしています。

 その利上げで、金利は0.25%から現在の2.5%へと推移、その値は10倍に増えました。

 借金したお金の金利が利払いが10億円であれば、それが今では100億円を返さなければならなくなるのです。

 予定していた10億円以外に90億円をどうするか、結局は、また借金するしかなく、こうしていると借金は雪だるま式に増え続け、最後は、資産の投げ売りしかないようになります。

 虎の子として持っていた「金(ゴールド)」さえも売るしかなくなるのです。

 現在、金は高騰していますが、この大量の投げ売りが始まると値下がりする、それが信用収縮のシグナルだともいわれています。

 FRBによる金利操作は、今年中に2回行われるますが、有力な地方の連邦準備制度理事会の代表者は、さらに1.5%利上げを行い、合計で4%の金利にするのがよいのではないかという見解を示しているそうです。

 そうなると日本は、どうなるのでしょうか?

 今も尚、頑迷にゼロ金利政策を主張する日銀とそれを追認する政府は、対往生することになるでしょう。

 その日米金利差は、なんと16倍になり、これを利用して、よく深いヘッジファンド(投資家)たちが、ハチミツに群がる蟻のように、日本を襲ってくるでしょう。

 これによって破壊されるのは、日銀や政府ではありません。

 それは国民生活であり、折角蓄えてきた預金や年金が丸ごと狙われてしまうのです。

 アベノミクスに従属させられた黒田日銀は、政府にいわれて仕方なくコロナのための融資を行ったこと以外においては、一度たりとも庶民のための金融政策を行ったことはありません。

 あれほど黒田バズーカと胸を張って放ったゼロ金利政策は、一度も、その目標であった物価値上げ2%が実現できずに放置してしまったではないですか。

 皮肉なことに、それを放棄した後になって、円安による輸入物価の高騰で、その目標だった2%をあっという間に超えてしまいました。

 少しでも人間らしい羞恥心があるのであれば、即刻辞任を申し出るはずですが、それさえ持ち得ず、任期まで居座ろうとしています。

 おそらく、日本の金融と財政を破綻させた日銀総裁として、かれは歴史的に残る総裁として末永く記憶されることでしょう。

 さて、大規模で急激な信用収縮は、すでに、世界各国で発生しています。

 最初は、ジンバブエ、ベネズエラなどの小国のインフレ率高騰から始まり、それらが徐々に主要国にも波及しています。

 日本はどうでしょうか?

 前記事において群馬大学名誉教授の山田博文さんの指摘を示しました(『経済』、p.80、2022年7月号)。

 「円安➡輸入物価高騰➡企業物価高騰➡消費者物価高騰➡国民生活破壊」
 
 これらの事態が一層深刻に進んいます。

 この9月、10月は、値上げラッシュが待ち構えており、その辺から食糧危機の心配も発生してくるという見方も出ています。

 問題は、まもなく起こるとされるアメリカの株価暴落によって何が起こるかです。

 それがどの程度なのか、いつまで続くのか、国債の利上げ問題とどう関係してくるのか、さらには、最も影響を受けやすい脆弱体質の日本が、どのような被害を被るのかなど、事は決して小さな問題ではなさそうです。

 迫りくるアメリカの株価暴落がバブル経済の崩壊を促進させ、それが膨らんで拡大して日本に波及し、格差と貧困の拡大、国民生活の破壊を容赦なく引き起こそうとしているのです。

 それは、同じく山田博文名誉教授によって、次のような金融危機・経済危機・財政危機が起こることが予測されています(『経済』、p.86、2022年7月号)。

 「バブル崩壊・各種資産価格の暴落➡銀行の不良債権・損失の拡大➡自己資本比率の低下・債務超過➡銀行破綻と金融危機➡企業への貸ししぶり・貸しはがし➡企業経営の悪化・倒産・失業と経済危機➡財政出動と金融緩和による経済対策➡国債増発・政務債務の累積・日本銀行資産の増大➡国債価格の下落・金利上昇➡財政資金調達難・政府債務のデフォルト懸念・財政危機➡日本銀行による大規模国債購入と超金融緩和・超低金利・通貨価値下落・円安➡バブル経済の膨張と崩壊という悪循環」

 このバブル経済崩壊の構図は、かつての日本の事例を踏まえて考察されたものです。

 また、アベノミクスと新型コロナウイルス対策として、ゼロ金利政策が長年実行されてきましたので、銀行を含めて市場にはお金が溢れています。

 したがって資金不足による経営の企業経営の悪化や倒産はさほど多くなっていません。

 しかし、前者のアベノミクス政策に固執した結果、その財政出動と金融緩和による経済対策➡国債増発・政務債務の累積・日本銀行資産の増大が異常なほどに膨れ上がってしまいました。

 その結果、日本銀行による大規模国債購入と超金融緩和・超低金利・通貨価値下落・円安➡バブル経済の異常な膨張が起こり、日本経済は弱くなり続け、破綻に近づいてきていました。
 
ダブルパンチ

 ここで、日本経済は、さらに2つのダブルパンチを浴び、ダウン寸前になっているのです。

 それは、円安に伴う輸入物価の高騰に連動した国内の物価高騰と日米金利差の拡大による、さらなる円安が襲ってきたことでした。

 あまりにも膨大な国債を実質的に買い入れたために、そして各銀行が借りた莫大な預金を日銀内に預けさせ、さらには、新型コロナウイルス対策として大量の貸し出しを出させたことから、日銀は、少しも身動きできなくなり、少しでも国債の金利を上げたならば、たちまち国債が暴落してしまうという危険な水域に落ち込んでしまっているのです。

 しかも、国内は空洞化し、内需を創造する産業がなく、しかも、ありとあらゆる分野においてアメリカに従属していますので、アメリカにおける株価の暴落が、日本経済に小さくない影響をもたらすことは十分に想定可能ではないかとおもわれます。

 当然のことながら、その暴落に連動して日本株も暴落することで、これまでの明治以来の「秩序」が大きく塗り替わっていくことになりそうです。

 時代の大きな変化、巨大なパラダイムシフトの龍が、のたうち始めるのではないでしょうか

 これから、長くのたうちまわる大恐慌の龍をしっかりと観察していきましょう(つづく)。

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                ブーゲンビリア