「フイルム」ストレス

 Kさんが脱サラして、家の農家を継いで、トマトづくりに挑戦したトマト栽培方法は、「アイメックフィルム法」と呼ばれるものでした。

 その説明書によれば、ナノサイズの孔がむっすうに空いているフィルムだそうで、次のような栽培方法の説明がなされていました。
 「①トマトは、水分供給量が少ない条件下で栽培すると糖度が増します。

 ②しかし、今までの土耕栽培や水耕栽培ではかん水や施肥の方法が難しく、安定的な生産ができませんでした。

 ③アイメック栽培は、無数のナノサイズのの穴が開いた特殊なフイルム(ハイドロメンブラン)により、トマトの根が求める養液だけを供給し余分な水分や雑菌を通さない(適度なストレスを与える)ことで、農業未経験の素人の方でも、栽培初年度から高糖度・高品質で安全・安心なトマトの生産を可能にする画期的な新技術です」

  ①~③の番号は筆者が書き添えたものです。

 ①については、確かにその通りであり、夏よりも冬の方がトマトの糖度が高くなる傾向にあり、それは冬場の方が、より乾燥していて水分供給量が減少するからです。

 また、潮風がよく当たることで甘いトマトを栽培することで有名な高知のトマトに関しても、風が吹くことによって乾燥しやすく、それがトマトの糖度を上げる一因になっています。

 ②についても、その指摘は当たっています。

 土耕栽培の場合には、その手間がかからない反面、気候に左右されやすい、害虫に食われる、なかなか生産性を上げることができず、収穫も年に2度程度に留まっています。

 既往の水耕栽培についても、その生産性や採算性において、十分な成果が得られていない、さらには農薬使用がなされているという問題が指摘されています。

 ③については、ナノサイズの無数の穴が開いた特殊なフィルムを使用することによって、

 ⅰ)トマトの根が求める養液だけを供給し余分な水分や雑菌を通さない。

 ⅱ)適度なストレスを与える。

 という2つの特徴が示されています。

 これらについては、トマトの根が求める養液だけを供給することができるかどうか、これが、まず問題になります。

 そのフイルムには、ナノサイズの穴が無数に開いていることから、この穴の径によって、そこを通過する養液と水分量が制御されていることが推測されます。

 当然のことながら穴径が大きいほど、それらの通過量は多く、逆に、その径が小さいほど通過量は限定されます。

 おそらく、適切な穴径を見出したことに新規性と進歩性を見出されたのでしょう。

 しかし、問題は、余分な水分を通さないことは可能なことでしょうか?

 また、ナノサイズの穴を開けることによって、それらが目詰まりを起こすことはないでしょうか?

 そして、ナノサイズの穴を水や養液が通過する際に、その穴における表面張力をどのように突破していくのでしょうか?

 これらの問題が、すぐに想起されますが、おそらく、実際に、あれこれと試行錯誤を繰り返しながら、格闘し、克服されていったのではないかと想像されます。

 一般的には、溶液中の栄養素よりも、水分子の方が小さく、余分な水のみを通さないという離れ業が可能なのかどうか、ここにも何か工夫されたノウハウがありそうです。

 微生物や細菌のことについては、「雑菌」という用語で説明されていますが、植物栽培において重要なことは、好気性微生物を増殖させ、同時に嫌気性微生物を不活化させることであり、これについては、詳しく解説されていませんので、その考察は控えておきましょう。

 嫌気性の雑菌を、ナノフィルターで通過させないことには有効性がありますので、これは長所ではないかとおもいます。

 ところで、Kさんから、光マイクロバブル装置を液肥タンクに入れるのはどうかという問い合わせがあったときに、私は次のように返答しました。

 「おそらく、その養液は、いくつもの成分が分子状に集積されて存在しているとおもわれますので、それを光マイクロバブルで解きほぐすことができるのではないかと考えています。

 また、その長時間にわたっての光マイクロバブルの発生によって酸素濃度も向上し、より細分化された養液は、より浸透性をますのではないかとおもわれます。

 さらに、養液の分散性、均一性が増し、安定的な供給が可能になるでしょう」

 その導入の結果は、それまでの収穫量と比較して約5倍になったそうで、大いに喜ばれました。

 そして、再度の注文がありました。

 次回は、もうひとつの重要な問題としての「適度なストレスとは何か」について分け入ることにしましょう(つづく)。
 
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赤ピーマン(緑砦館3)