「東医宝鑑」を著したホジュン
「大長今(テジャングム)・宮廷女官チャングムの誓い」に続いて、私が、真に、おもしろく拝聴したのは、「ホジュン『宮廷医官への道』」でした(正規の名前では、「ホ・ジュン」ですが、物語としては、中点なしで表現されていますので、それを以下使用します)。
全65回、最高視聴率63.7%、監督イ・ビョンフンの最高傑作のひとつです。
全65回、最高視聴率63.7%、監督イ・ビョンフンの最高傑作のひとつです。
主演のホ・ジュン役にはチョン・グァンリョル、その妻となるイ・ダヒにはホン・チュンミン、そしてホ・ジュンを信頼して支援したイェジンにはファン・スジョンが、熱演されています。
後に、別の俳優によって再演されていますが、私は、その最初の方が、より強く印象に残っています。
このドラマの特徴は、毎回が60分の番組で、週に2回、合計で65回という長きにわたって放映されたことにありました。
群守(今の知事に似た役職のトップ)の妾(奴婢)の子として生まれたホジュンは、その生来がゆえに悩み苦しみ、やけくそになって放蕩三昧を繰り返し、当時、見つかれば死刑とされていた密貿易にまで手を染めていました。
そのかれが、父親の罪で追われていた両班(リャンバン、支配階級の身分)娘ダヒが、密貿易をしようとしていた時に、偶然出会います。
父を救うために、明の薬が必要だったダヒの命を顧みない熱意に絆され、ホジュンはダヒを手伝って密貿易をしている最中に警察に捕まってしまいます。
父を救うために、明の薬が必要だったダヒの命を顧みない熱意に絆され、ホジュンはダヒを手伝って密貿易をしている最中に警察に捕まってしまいます。
その警察のトップがホジュンの父親であり、当然のことながら叱られ、牢屋に入れられます。
なんとか助けてほしいという母親の懇願もあり、かれの父親は、ホジュンを、もう最後だと思って許し逃がし、そして自分は、その責任を負って職を退いたのでした。
これによって愚かな放蕩を繰り返していたホジュンは、それを心から反省し、ダヒと共に慶尚道山陰に逃れます。
ここから、奴婢の子ホジュンと両班の娘ダヒとの生活が始まりました。
見知らぬ土地で、あてにしていた知人もおらず、途方に暮れていたホジュンは、欲深い連中に騙され、有り金をはたいてしまいました。
それでも騙された他人の家で間借りをしながら、医学への道を目指すことになりました。
当時の医院には、安い給料で住み込みの弟子たちが何人もいて、その最下位の水汲みが、ホジュンの最初の仕事でした。
医院のことは何も知らず、何も教えてもらえない状態で水汲みをしていて、ある時、主医のユ・ウィテからひどく叱られます。
治療に使う水は、それぞれの病気や治療方法に応じて10何種類の水があり、それらを場所ごとに汲んできて亀のなかに入れておく必要があったのです。
イェジンとの出会い
そのことをそっと教えてくれたのが、ユ・ウイテの弟子のイェジンでした。
彼女は、優しくてお淑やか、しかし女性医師としての信念は固く、どこまでも、心のなかではホジュンを慕い、尊敬しながら尽くしていくという古代韓国女性の鏡のような女性でした。
ホジュンは、水汲み、薬草採り、薬草の倉庫番、医師補佐、医師へと、ありとあらゆる嫌がらせ、いじめを受けながらも、駆け上がっていきます。
そのなかで、最初に才能を発揮したのが、針の腕でした。
この修行は、ユ・ウイテ医師ではなく、その友人で、かつての宮廷の医師が、山野を駆け巡っては獣を捉え、解剖していてホジュンに出会い、ホジュンが彼に弟子入りを三日三晩頼み込んだのでした。
朝昼は水汲み、夕方から夜は、山に登って小屋での学習に明け暮れるという日々が続きました。
強い意欲と若い情熱が、一気に医学の勉強を推し進めさせたのであり、これが、いわゆる身体で勉強を行うことだったのです。
私も、若い頃は、頭で勉強をするのではなく、身体で勉強をするのだと思い聞かせて、寝食を惜しんだ時がありました。
夜な夜な、おかし気な行動をしているホジュンでしたので、周囲は気がふれたのではないかと疑っていました。
それでも、ホジュンは、医学を学ぶことが心からうれしく、喜びだったのです。
この元宮廷医官に出会って、直接、医の神髄を学び、さらには針の修行まで受けたことで、ホジュンの医師としての素養と技能が格段にレベルアップしていきました。
夜通しで勉強しても苦にならない、新たな知識と技能を得ることが、そこはかとなく幸福に感じる、この豊かな人間性が、優れた医師になっていく基礎であり、ホジュンは、その素養と資質を有していたのでした。
ホジュンの成長
この昼夜を分かたぬ実践的勉強と修行によって、ホジュンは、みごとに成長していきました。
すでに、単なる水汲みや薬草採りではなくなり、医術を熱心に学ぶ修習生になっていました。
この変化に、イェジンやユ・ウィテが気づかないわけがなく、彼女は、そっと援助し、かれは、じっと見続けていました。
ところが、そのことにまったく気づかず、すぐ上の兄弟子3人は、嫌がらせといじめを繰り返すだけで、もう一人の兄弟子のカン・ドックも冷ややかに見ているだけでした。
そして、ホジュンのライバルとして登場したのがユ・ウィテの息子で医師のユ・ドジでした。
かれは、マザコンの典型的息子であり、父親の良いところは少しも受け継いでいませんでした。
その母からは、「父親みたいに田舎の医師で終わってはいけない」と諭され、彼自身も、それを信じ込んでいました。
医師になるには、すべてが恵まれていたユ・ドジ、反対に、そのほとんどを有していなかったホジュン、この二人は、師であるユ・ウィテに対する考え方においてもまったく異なっていました。
そして、この物語は、ホジュンとユ・ドジをめぐって、さまざまに展開していくのです。
「医とは何か」、「医は、だれのためにあるのか」が問われるようになり、ここで、この物語のキー・ワードである「心医とは何か」が深く掘り下げられていきます。
次回は、この「心医」をめぐっての展開に分け入っていきましょう(つづく)。
白瓜の花(緑砦館2)
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